【石母田星人 選】
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春星や指跡残る火焔土器 東松島市新東名/板垣美樹
【評】燃え上がる炎をかたどったかのような形状。そんな土器を眺めていたら、力強い意匠、造形の中に指の跡を見いだした。4500年ほど前の縄文時代を生きた製作者のものだ。その指跡から人間の息遣いが聞こえてきた。上五の春星がいい。この季語で現在と縄文時代の過去を巧みにつないでいる。土器の指跡も春の星々も時空を超えて語りかけてくる。
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楽しげに足裏くすぐる春の土 石巻市広渕/鹿野勝幸
【評】雪が消え凍った状態が緩んで顔を出したのは春の土。その上に立ち状態を確認する作者は土作りのプロ。良い作物を育てるため、目覚めたばかりの土に現在の気分を聞く。答えは「楽しげに足裏(あうら)くすぐる」ほどの上機嫌。今年も期待できそうだ。
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蝌蚪の紐池に流れのありにけり 東松島市矢本/紺野透光
【評】蝌蚪(かと)の紐(ひも)とはカエルの卵。池に流れがあると伝えているだけだが、これだけでこの卵の成長過程をイメージすることができる。想像へと誘う写生句。
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玄関に春泥の靴また一足 石巻市中里/鈴木登喜子
【評】近くに、舗装されておらず雨や雪で泥になる通路があるのだろう。その道を通って来た靴が玄関に並んだ。ぬかるみをさかなに楽しい語らいが始まる。
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返信のなきを十年冬昴 石巻市開北/星ゆき
天網の破れし如くぼたんゆき 石巻市小船越/芳賀正利
地震知らぬ若き語り部春の海 東松島市あおい/大江和子
合掌で迎ふる導師春の雪 石巻市桃生町/西條弘子
枯園に羽根一枚を遺しけり 石巻市丸井戸/水上孝子
古民家の梁の太さや牡丹雪 石巻市元倉/小山英智
新築に蝋梅つんと朝の風 仙台市青葉区/狩野好子
秒針のリズムにのりて余寒来る 東松島市矢本/雫石昭一
山頂の風車ころころ春を待つ 石巻市蛇田/石の森市朗
荒磯や波の調べに春きざみ 石巻市門脇/佐々木一夫
縫ひ上ぐるスカート春のワルツかな 石巻市中里/川下光子
蕗味噌や母恋ふ宵のほろにがさ 石巻市南中里/中山文
初午や昼餉に届く稲荷ずし 石巻市桃生町/佐々木以功子
凍結の北上川のしが渡り 石巻市吉野町/伊藤春夫
夜の地震仏間に春の花散す 石巻市蛇田/高橋牛歩
携帯の呼び出しサザン春近し 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美