【石母田 星人 選】
山粧ふ谷にこぼるる女声 石巻市桃生町/西條弘子
【評】山頂から見下ろしたのだろう。見事な紅葉が谷間を彩る。女性たちの歓声がキラキラと輝いた。
電線を揺らして並ぶ秋つばめ 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】この時季は、カモやガン、コハクチョウなど北方から渡って来る鳥たちがいる一方、南方へ帰って行く鳥もいる。子育てを終えたツバメもそうだ。半年ばかり過ごした石巻の風景を、目に焼き付けているのだろうか。長旅へ挑む前の儀式のようにも見える。
曼珠沙華やんちゃなゴンが見えかくれ 石巻市渡波町/小林照子
【評】実際には犬なのだろうが、新美南吉の童話のキツネが浮かぶ。日常に出現したメルヘンの世界。
片足の遮光器土偶草紅葉 石巻市中里/佐藤いさを
闇の濃き方よりせまる虫の声 石巻市小船越/芳賀正利
海面に満月の影くっきりと 女川町旭が丘/阿部重夫
万葉の和歌の小径に桔梗かな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
朗読の八雲怪談蘆の花 石巻市中里/川下光子
読み通す震災詩集冬隣 石巻市流留/大槻洋子
秋の海静まりゆきて十四年 石巻市流留/和泉すみ子
無花果や自分の命包み込み 石巻市桃生町/佐藤俊幸
白鷺や刈田に寡黙個々の貌 東松島市矢本/田舎里美
駅で逢い駅で別れる良夜かな 松島町磯崎/佐々木清司
ででぽぽのこゑの運びし秋の朝 石巻市丸井戸/水上孝子
木犀や姉が筆持つ書道塾 石巻市新館/高橋豊
老木にそっと寄り添う萩の花 石巻市のぞみ野/阿部佐代子
しばらくはとんぼの群れと土手を行く 石巻市向陽町/成田恵津美
病む親の耳目となりて胡桃割る 石巻市元倉/小山英智
酔芙蓉みつめてをれば酔ひにけり 石巻市門脇/佐々木一夫
日帰り湯疲れをほぐし夕苅田 石巻市湊/斎田流雲
残菊や古稀祝いたる同期会 東松島市赤井/志田正次
親不知抜く日のほほに秋の風 東松島市矢本/菅原京子
秋盛る大漁祭りのつかみ取り 石巻市駅前北通り/津田調作
町煙る炭火秋刀魚に人集う 石巻市水押/阿部磨
十月や二尺の鰻釣れにけり 石巻市三ツ股/浮津文好