俳句(8/2掲載)

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【石母田 星人 選】


老い二人昔を啜るところてん   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】きっと夫婦だろう。一緒に卓を囲んでいる。「昔を啜(すす)る」の表現が巧み。ところてんの味覚だけでなく、二人で共有した青春の記憶をも味わっている。


海開き真砂けちらし一斉に   東松島市あおい/大江和子

【評】神事や安全祈願の後、若者や子どもが一斉に駆け出した。波音に負けないほどの歓声も聞こえる。「真砂けちらし」には、夏本番の躍動感が乗る。


重たきを何やら持つや梅雨の蝶   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】その蝶を見たのは、重い雲が切れたわずかな晴れ間。軽やかな春の蝶とは違い、息切れするように飛んでいた。軽重、大小、明暗の対比で構成した句。


此処からは北上山地青田波   多賀城市八幡/佐藤久嘉

街灯り透かし雲海のぼりくる   石巻市流留/大槻洋子

仮面ライダー濡れて梅雨寒の街   石巻市桃生町/西條弘子

眼底のなかをひたひた銀河ゆく   石巻市駅前北通り/小野正雄

終戦忌予定なき日のカレンダー   松島町磯崎/佐々木清司

滝行の白装束の手の震え   石巻市元倉/小山英智

原子炉の建屋に日差しつばくらめ   石巻市蛇田/石の森市朗

夏の海にぎわい消えて幾年ぞ   石巻市流留/和泉すみ子

帰省子を祖父母の遺影じっと視る   石巻市新館/高橋豊

夏茜地蔵の肩で眠りをる   石巻市向陽町/大渡清

海鞘むけば億年の海の宝物   石巻市駅前北通り/津田調作

遠花火ぼんやり無地の思考かな   石巻市桃生町/佐藤俊幸

油蟬忘れ上手となりて老ゆ   石巻市渡波町/小林照子

青葉濃しメタセコイアの並木道   東松島市赤井/志田正次

山帽子花の重さにしなる枝   石巻市二子/小松道男

清流の小川に咲きし苔の花   石巻市小船越/芳賀正利

若葉風古農具並べカフェオープン   石巻市開北/ゆき

駐車する庭の四台梅雨の月   石巻市中里/川下光子

老鴬の少しつかへるところあり   石巻市広渕/鹿野勝幸

猛者集うパークゴルフや雲の峰   石巻市湊/斎田流雲

梅漬や年を重ねて綾をなす   石巻市水押/阿部磨

四角窓夏雲のぞくヘアサロン   塩釜市新浜町/佐々木夏子


川柳(8/2掲載)

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【水戸 一志 選】


老人力増して米寿がやって来た   石巻市蛇田/鈴木醉蝶

【評】老人力という流行語が登場したのは約30年前。高齢化時代の始まりで、ある作家が、ぼけ、もうろくを「老人力がついた」とプラス思考のユーモアで言い換えた。だから、「まだまだ元気な老人」に使うのは誤用。さて、米寿のこの方はどっちだろう。


チコちゃんに叱ってほしいトランプを   石巻市蛇田/源一郎

店先の桃の香嗅いで値段見る   石巻市日和が丘/千葉レイ

日の本のカタカナ語には首ひねる   石巻市桃生町/若山千賀子

保冷剤首に巻き付け自己防衛   東松島市矢本/菅原京子

梅雨空を蹴とばし叫ぶ甲子園   石巻市蛇田/喜寿郎

皇族の血が足りなくてする輸血   石巻市あゆみ野/日野信吾

金出せば議長になれる県もある   石巻市蛇田/菅野勇


短歌(7/26掲載)

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【斉藤 梢 選】


耳元にナズナをふればかすかなる記憶からめて音もかすかに   石巻市流留/大槻洋子

【評】薺(なずな)はぺんぺん草とも呼ばれ、春の七草のひとつ。昔々は、茎を持って振ると実と実がふれあって小さな音がするので、子供のおもちゃにもなったという。「耳元」にナズナを近づけて振っている作者に、甦る音の記憶。遠い日の音と、今の音が重なって作者を追憶の世界へと導いてゆく。その感覚を「記憶からめて」と表現したところが優れている。この一首の中には、長い時間がかすかに流れていて、短歌という小さな詩型が、一個人の生の歴史をこんなにも悠然と受け容れてくれていることを、改めて知る。


年月が過ぎれば風にほどけたり長らく疎遠の友と語らふ   東松島市矢本/田舎里美

【評】作者と友の間には、おそらく「疎遠」にならざるを得ない事があったのだろう。そして、お互いに歳を重ねることにより、その蟠(わだかま)りが解けて語り合うことができたと詠む。年月が経つほどに、鮮明になる事と、次第に薄れてゆく事がある。心がほどけてゆくとせずに「風にほどけたり」という言葉を選んだことで、情感のある上の句になったと思う。


幼児(こ)の泣き声遠くに聞こえ耳澄ます静かな地区にふくらむ希望   石巻市不動町/新沼勝夫

【評】作者にとっては嬉しく思われる幼児の泣き声。少子化が進むことへの危惧をも含むこの作品。作者の心情が「耳澄ます」でよくわかる。これから成長していく命は「地区」にとっての「希望」。


死亡欄同じ年頃並びおり余生如何にと生き様思案す   石巻市蛇田/菅野勇

【評】お悔やみ欄、死亡広告を見て、自分と同じ年齢が並んでいることが「思案す」の結句を生む。「余生」という言葉が、この時の作者の切実な真意。


短歌(うた)呼べば妻との思い出走り来る夏の夕べの朝顔の花   石巻市駅前北通り/津田調作

スプーンに掬えばメロン欠ける月 貪(むさぼ)るほどに夜は更けゆく   石巻市二子/小松道男

シャクヤクの淡きももいろこの雨にしわりしわりと泣きべそを見す   石巻市開北/ゆき

食品税一パーセントは最新の話題となりて世を駆け抜ける   石巻市南中里/中山くに子

合理化の遠い畑にも心遣る汗は流れる俺は生きてる   石巻市桃生町/佐藤俊幸

言われると心にパッと花ひらく「ありがとう」って不思議な言葉   石巻市あゆみ野/日野信吾

夕月が昇りはじめて低い空ゆっくりでいい夜はこれから   東松島市矢本/畑中勝治

土手の脇いにしえの板碑数基立つ一礼をしてそっと去るわれ   石巻市鹿又/門間典彦

目を病みしかの日のきみを思ふとき瞳にしむるミモザの光   石巻市駅前北通り/小野正雄

この浴衣「好(しゅ)き」と言うかなひい孫の選ぶ手元が楽しく踊る   石巻市蛇田/櫻井節子

散歩道ビションフリーゼ会うたびに重ね合わせる庭のアナベル   東松島市赤井/志田正次

ためらいを含んで泡が揺れているソーダー水は青春の泡   石巻市渡波町/小林照子

泣き虫の雨とあじさいコラボして傘差してまでこの場離れず   石巻市西山町/藤田笑子

靴底を突くような芝心地良し歩く歓びに足軽くなり   東松島市赤井/茄子川保弘


川柳(7/26掲載)

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【水戸 一志 選】


賢治泣く猛暑長雨エルニーニョ   石巻市開北/安住和利

【評】宮沢賢治の「雨ニモマケズ」は死後、手帳のメモから見つかった。「雪ニモ夏ノ暑サニモマケズ」と農に生きる姿勢を綴って、「サウイフモノニワタシハナリタイ」と願っていた。当時、酷暑や線状降水帯といった言葉はもちろんない。しかし、通じるものはある。


イヤはイヤごねる子どもに菓子与え   石巻市三ツ股/木村タツ子

薬局に頑固を治すくすり無し   登米市津山町柳津/亀井繁次

胸痛むさい銭泥の映像に   石巻市蛇田/福田敏和

園児帽いろいろ咲いて紫陽花や   石巻市清水町/日陰のわらび

夏つばめUターン禁止違反する   石巻市向陽町/大渡清

蜘蛛たちが何かを悟り巣を低く   石巻市水押/阿部磨

ホルムズを埋めてしまえと言う人も   東松島市赤井/佐々木スヅ子


コラム: バーバーショップ

 お金はあまり使わないで楽しみにしている事が一つあります。床屋に行くことです。一回3000円。整髪して、顔の毛をそって、シャンプーで洗ってもらう。全部で2時間足らず。

 床屋は理髪店が正式名称ですが、英語では barber shop (バーバーショップ)あるいは barber's 。「野蛮な」「野蛮人」などという barber という言葉から派生したようです。

 「床屋(とこや)」と呼ばれるようになった最大の理由は次のようなものです。

 「江戸時代に営業していた仮設の店舗である『髪結床(かみゆいどこ)』に由来する...」

 当時、髪結い職人たちは橋のたもとや盛り場に板や竹を組んだ簡易な作業台・敷物(=「床(とこ)」)を置き、屋台のような営業をしていました。この場所が「髪結床」と呼ばれていたことから、いつしか職人たちのことも「床屋」と呼ぶようになったとされています。面白いですね。

 理髪店より床屋の方が親しみやすい響きがあるようですが、皆さんはどのように思われますか?

 冒頭で述べた私の行きつけの barber shop の御主人が小学からの親しい同級生ということもあり、お金を払って頭を奇麗にしてもらうのは私にとってまさに「一石二鳥」と言えます。床屋に行くのは私には何よりの楽しみになっています。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)


俳句(7/19掲載)

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【石母田 星人 選】


岳下りるゆとりの道に額の花   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】たくさんの額の花に迎えられて一安心。読む者にも広く緩やかになったゆとりの道が見えてくる。


マンションに積木の灯り星祭   松島町磯崎/佐々木清司

【評】晴天ならば今日の夕刻、西空には月と金星が見え、東空には、わし座の彦星と、こと座の織り姫が見える。七夕まつりは、あの二星の天上の恋物語だ。地上へ目を移すと人間のともす四角い灯り。その一つ一つのぬくもりが、星の物語と呼応して響き合う。


梅雨明や売場を走る掃除ロボ   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】「走る」に注目。この動詞で無機質なロボに人格が備わる。梅雨明けの明るさを楽しんでいる。


紫陽花や釉薬重ね窯の中   石巻市新館/高橋豊

梅雨出水怒濤となりて山動く   東松島市あおい/大江和子

竹林の枝葉を揺らす風は初夏   石巻市小船越/芳賀正利

吹かれ寄る風の匂ひの竹落葉   石巻市桃生町/西條弘子

白日傘都会の匂ひ纏ひけり   石巻市流留/和泉すみ子

秘境駅旅のノートに青しぐれ   石巻市向陽町/大渡清

一輪の手折りしバラの雫かな   石巻市中里/川下光子

オリーブのつぼみへ朝の遠回り   石巻市流留/大槻洋子

珈琲の湯気の向こうに迎え梅雨   東松島市赤井/志田正次

思い馳せ日和の城に梅雨の雷   石巻市湊/斎田流雲

一升餅背負いて笑う梅雨晴間   石巻市渡波/伊藤奶奶

はたた神しっかりしろというように   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

獲れたての何もかけずに夏料理   石巻市桃生町/佐藤俊幸

小猫抱く路地の陰りの梅雨寒し   石巻市元倉/小山英智

磯香る殻の風情や海鞘の味   東松島市矢本/田舎里美

痩せさんま腸まで食べてほろ苦し   石巻市渡波町/小林照子

夕影やニラのするどき芽の伸びる   石巻市駅前北通り/小野正雄

飛び込んで燕の内覧ホバリング   石巻市小船越/堀込光子

初飛行つばめ集まり祝い舞   石巻市二子/小松道男

蛍舞ふ流れの淀の清らかさ   石巻市水押/阿部磨

磯浜でひじき刈りをる老夫婦   女川町旭が丘/阿部重夫

稽古終えしだれ桜の寺参道   石巻市桃生町/西條和江


川柳(7/19掲載)

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【水戸 一志 選】


カーボベルテこの国知ったサッカーで   石巻市八幡町/松川登美子

【評】カーボベルテ共和国。名前も聞いたことがない西アフリカの島国が、サッカーのワールドカップに出た。しかも、対戦した強豪国と互角に戦い、一躍世界の注目を浴びた。人口50万、美しい海に浮かぶ童話の国のようなプロフィルがいい。胸キュンの一句。


健診後届くハガキをそっと開け   石巻市中島/門間みえ子

もの忘れくりかえしつつ年を取る   東松島市野蒜ケ丘/菊池はま子

かすみ網通路はダメだ蜘蛛さんへ   石巻市須江/田代文男

会話せず無心になれるかき氷   石巻市西山町/藤田笑子

引出しの奥に栓抜き久しぶり   石巻市湊/小野寺徳寿

散る前にトゲのない薔薇絵に残す   石巻市水押/小山信吾

真夜中のサッカー観たさ寝る八時   東松島市赤井/志田正次


短歌(7/12掲載)

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【斉藤 梢 選】


人参の色が私に問いかける今日も生きよと声なき声で   石巻市南中里/中山くに子

【評】木のまな板の上に人参が一本ある。この光景を画家ならばどう描くだろう。忠実に対象を捉える人と、抽象画的にする人も。何かを見た時に何を感じるかによって、描き方も詠み方も違ってくる。作者は、目の前にある人参の色に生命力を感じ得た。「問いかける」が「今日も生きよ」になるまで、誰も聞くことができない人参との言葉が交わされたのだろう。この一首の優れたところは「色」としたこと。生活の中にあるものの一つが思いがけなく、滋養となることもある。人参の色の励ましに気づく作者の純真な精神。


一度きり種は発芽のその時に一マス程度の土に従う   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】「その時」を詠む一首。種を蒔き、実りの時を迎えるまでの、「種」と「土」との人間が知り得ない∧共同作業∨を思う。「発芽のその時に」「土に従う」という表現に、改めて自然と農について知る。作者の経験が生み出した真理の「土に従う」。天候不順による野菜の値段の高騰などが、話題になる昨今であれば、農を営む人たちの日々の作業に頭が下がる。そして、人もまた心の土壌を大切にしなければと願う。


雉鳴いてホトトギス声を響かせる上手い下手など競うこと無く   石巻市鹿又/門間典彦

【評】雉もホトトギスも唯一の声で鳴く。最も表現したいことは「競う事無く」。この作品を詠んだ背景には、「競う」や闘うという社会状況があるのでは。


安否知る手段の一つの入選歌だから続けよと友は無理言う   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】歌を詠むにも体力が要る。新聞の「短歌」欄に作品が載ることが「安否知る手段」と言う友。歌は「生の証明」なので、これからも作者らしい一首を。


もう二度と会えぬ別れのさよならと明日また会える今日のさよなら   石巻市あゆみ野/日野信吾

一枚の地図を買うため乗る電車レールのひびきは山への序章   石巻市流留/大槻洋子

花花のうつろい眺めて暮らす日々散り行くものに輪廻を想う   東松島市矢本/川崎淑子

浜辺にて拾いし貝殻描けども潮のかおりが見えぬさびしさ   石巻市湊東/三條順子

けなげにも風に煽られ絹さやが耐え忍びおり我に学べと   東松島市大曲/瀬戸隆雄

ウォーキングマスクはずせば生の風わっと香るは沈丁花の香   東松島市矢本/田舎里美

山鳩の声の聞こえてのどかなり初夏のそよ風頬を撫でゆく   石巻市不動町/新沼勝夫

三叉の花の咲く木に初蝶が蜜を求めて暫しとどまる   石巻市桃生町/千葉小夜子

癒えし眼に沁み入る如き赤きばら白内障よ永久にさよなら   石巻市門脇/佐々木一夫

寝がえりもできぬいたみのこの身体ここち良き眠り一夜(ひとよ)でも欲し   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

衣更え白い人波朝の駅声弾ませて笑顔行くなり   東松島市赤井/茄子川保弘

新しいシーツに包まれ休む夜は新しい夢きっと待ってる   東松島市矢本/畑中勝治

父の日に双子の娘(こ)より贈られし服とベルトで腰らくになり   石巻市二子/小松道男

「体調は」にまずまずですと答えれば次回の予約で診察終わる   石巻市向陽町/大渡清


川柳(7/12掲載)

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【水戸 一志 選】


笑わずにいられずしわの数増える   石巻市門脇/中沢定子

【評】笑う門には福来たる。何かよい事があったのだろうか。トランプ、物価、熊、詐欺、国会と、笑えない話でにぎわう川柳に、五七五の正しいリズムで、穏やかなユーモアが届くとホッとする。しわなど物の数ではない。鏡に向かって口角を上げよう。


今年またどくだみチンキ届く頃   石巻市須江/原田まちこ

若隆景二回目には舌を噛み   石巻市二子/近藤孝悦

入選で安否確認されてます   東松島市赤井/佐々木スヅ子

まだ頭多少まわると駄句ひねる   石巻市蛇田/菅野勇

この年になってばりみろ母卒寿   東松島市大塚/石垣久子

ゼロの数昔と違う詐欺事件   石巻市蛇田/大山美耶紀

また値上げ政治の力まだ見えぬ   石巻市不動町/新沼勝夫


コラム: クレオパトラ

 映画「クレオパトラ」(1963年公開)を見ました。20世紀フォックス社の製作でしたが、初期予算の数十倍に膨れ上がった巨額の製作費などにより、重大な経営危機に見舞われました。

 莫大な予算超過とセットの作り直し、および主演女優エリザベス・テイラーの重病による撮影中断や、共演したリチャード・バートンとの不倫スキャンダルが過熱し、脚本の変更や撮り直しを余儀なくされました。

 オードリー・ヘプバーンも主演女優候補でしたが、最終的にテイラーに決まりました。撮影中断の際には再び、ヘプバーンが代役候補に挙がりましたが、重病を克服したテイラーが最後まで主役を務めました。

 テイラーの素晴らしさはその人物にあると思います。マスク、声、一挙手一投足...。どれも魅力的なものです。これはテイラー独特のものです。

 「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史は変わっていただろう」。フランスの哲学者パスカルの著書「パンセ」に登場する有名な言葉で、「ささいな出来事や些細な条件の違いが、後にとてつもなく大きな結果(歴史など)を生み出すこと」の例えとして使われます。

 共演のリチャード・バートンで忘れられないのは Under Milkwood (アンダー・ミルクウッド/ミルクウッドの下で)の朗読です。ウェールズの詩人ディラン・トマスが書いたラジオドラマ・放送詩劇です。

 ある架空の海辺の村に住む、少し変わった人々の「ある1日」を描いた物語です。人々の夢や日常の生活が、詩的で美しい言葉でつづられています。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)