コラム: 乾坤一擲(けんこんいってき)

 「乾坤一」という酒があります。宮城県の村田で仕込まれる酒で、300年以上の由緒ある銘酒として広く知られています。15年前の東日本大震災で壊滅的な被害を被りましたが、その後生産を再開し、今も多くの人に愛されています。私もこの酒が大好きで、折に触れ親しい人たちと酌み交わしたものです。

 「乾坤一」という名前の由来は、運を天に任せて大勝負をするという意味の熟語「乾坤一擲」にありますが、調べてみると、実は江戸時代には「不二正宗」と呼ばれていたそうです。しかし、明治初年に蔵を視察に訪れた宮城県知事から提案されて改称したのだとか。

 その「乾坤一擲」にあたる英語は何でしょうか。

 手元の辞書によれば「 all or nothing 」とあります。「乾坤一擲の勝負に出る」は「 play for all or nothing 」と言うそうです。「一か八か」の勝負というわけですから、この「乾坤一」という銘柄、いかにも豪快に飲みほす日本酒にふさわしい名前といえますね。

 ちなみに、「一か八か」とよく似た言葉に「のるかそるか」があります。

 「新和英大辞典」によれば、これに該当する英語表現にはいろいろあり、
   sink or swim
   win or lose
   make or break
   hit or miss
などが並んでいます。なかなか面白いですね。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)


短歌(2/22掲載)

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【斉藤 梢 選】


草の芽の頭なでればほとほとと春を感じる皺の指先  石巻市門脇/佐々木一夫

【評】春が近づいてきたことを実感しての一首。秋が短かった昨年、これからは四季ではなく二季になるのでは、という惑いも生まれた。でも、土の中では春への準備がされていて、植物はしっかりと約束を守って芽を出す。「頭なでれば」には、作者の芽を愛おしむ心持ちがあり「ほとほとと」というオノマトペが感覚をよく表現している。人生を長く生きてきたからこその経験により選んだ結句の「皺の指先」が、なんとも味わい深い。歌材は、こんなにも身近にあるのだ。


巡る春あの日の日記の走り書き「三月十一、大津波」だけ  東松島市矢本/門馬善道

【評】春を待つ心に一つの影がある。三月十一日に発災した東日本大震災。もうすぐ、あれから十五年。「走り書き」の言葉が、あの未曾有の災禍を今に伝えている。被災した人にとっては、おそらく「風化」は一生涯ありえない。被災は、あの日からずっと続いている。地域は復興しただろうが、心の中はそんなに簡単には切り替えられないのではないかと。この作品の「だけ」を、考えながら今年も春へと歩む作者か。


葉を失くしねず色の枝(え)の裸木の薫風までの力を思ふ  石巻市開北/ゆき

【評】裸木の表面には見えていないけれども、日々育まれている生命の真の力に思いを馳せている。「薫風までの」の具体が優れていて、この裸木にある「力」は作者をも勇気づけているに違いない。


九ちゃんは持っていませんスマートフォン上を見上げて歩いてごらん  石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】坂本九が「上を向いて歩こう」を初披露したのは一九六一年。この歌に励まされてきた人は多い。<歩きスマホ>よりも「見上げて」という作者の声。


ビニールの冬のハウスは寒知らず春を掴んで人参発芽す   石巻市桃生町/佐藤俊幸

昨日風、今日には雪が自己主張明日の私は何を示すか   石巻市蛇田/櫻井節子

いさぎよく裸となれる冬木立生き残る術は自分で学ぶ   石巻市流留/大槻洋子

冬の陽の優しさ明るさうらめしく二人の友を失いしゆえ   東松島市矢本/川崎淑子

背中押す言葉たくさんくれし伯母「またね」に振る手白くか細し   東松島市矢本/菅原京子

毛糸の紐付きし手編みの手袋や悴む指に母のぬくもり   東松島市赤井/志田正次

霜の朝土を持ち上げ水仙の新たな生命(いのち)顔を覗かす   東松島市赤井/茄子川保弘

風花舞い梅のつぼみもまだ固く聞こえてくるは鹿の声のみ   石巻市高木/鶴岡敏子

新年に望みは何と問われても願いは言えどいつもかなわず   石巻市中里/のの花

時を経て本を開けば印あり探さず見つかるウォーリーが   女川町浦宿浜/阿部光栄

春が来る垣根を越えて尾根越えて桜の花を土産に持ちて   東松島市矢本/奥田和衛

今朝の空目には見えぬが強い風吹いているんだ木々が揺れてる   東松島市矢本/畑中勝治

ムズムズと七年かかった小さな芽小声で励ますカタクリの花を   石巻市西山町/藤田笑子

帰省の孫帰りし後の家の中前にも増して静寂深まる   石巻市蛇田/菅野勇


川柳(2/22掲載)

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【水戸 一志 選】


当確の投票箱はまだここに   石巻市須江/田代文男

【評】午後8時の投票締め切りと同時に、テレビが次々と当確を打った。投票箱はふたを閉じたばかりで、中はまったく分からないのに。有権者が自分の投じた清き一票の行方をじっと見守る時間帯は、今回なかった。報道の先走りにあきれている一句。


オリンピック見ているうちは平和だね   石巻市蛇田/菅野勇

コツコツと「千里」の道を一歩ずつ   石巻市向陽町/大渡清

署名簿を出しても拉致は戻らない   石巻市蛇田/鈴木醉蝶

不幸せだから幸福ドラマ見る   石巻市三ツ股/上品夢好

どか雪を高市熱でとかしてよ   石巻市渡波/阿部芳明

舞い降りるしんしん雪の殺人鬼   石巻市渡波町/小林照子

エンゲル係数もちあげ上手年金者   東松島市赤井/片岡シュウジー


「石巻かほく」あす発行

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 あす23日(月)は振り替え発行し、24日(火)は休刊とします。

三陸河北新報社


俳句(2/15掲載)

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【石母田 星人 選】


さまざまな絵の具隠して山眠る   石巻市新館/高橋豊

【評】冬の山を「眠る」と比喩的に擬人化したのが下五の季語「山眠る」。この句は、その静まり返った冬山の内側を詩的に覗いている。春を待つ動・植物の命や営みを「さまざまな絵の具」と巧みに表現した。周囲の山々に色彩の爆発が起きるのももうすぐだ。


冬ざるる工事穴にて談議かな   東松島市矢本/田舎里美

【評】冬の工事穴から話し声。それだけでも意表を突く。談議だからさらに面白い。佐保姫らの声かも。


おでん鍋「お帰り」の声溢れをり   石巻市流留/和泉すみ子

【評】帰りを待っていてくれた家族の声だろうか。おでんの湯気を囲んでにぎやかなひとときが始まる。


猫柳大河の流れ聞き芽吹く   石巻市小船越/芳賀正利

雪深し大地の鼓動包み込む   石巻市湊/斎田流雲

寒明けや蒼天響み喜春楽   松島町磯崎/佐々木清司

雲きれて墨絵のごとし冬の山   石巻市向陽町/大渡清

雪景色メタセコイヤの透けて立ち   石巻市小船越/堀込光子

工場のけむり海へとレノンの忌   石巻市流留/大槻洋子

みちのくに森があっての牡蠣の海   多賀城市八幡/佐藤久嘉

綿雪や雲をちぎりて舞うてをり   石巻市丸井戸/水上孝子

寛解の報を土産に田鶴来たり   石巻市渡波/阿部太子

元日や満艦飾に祝ひ船   石巻市門脇/佐々木一夫

祝ひ酒冬の花火の帰り道   東松島市矢本/菅原京子

大寒や口にとろけるチョコレート   石巻市駅前北通り/小野正雄

御神火に息災願う親子かな   石巻市元倉/小山英智

赤い実に殺到の鳥寒の内   石巻市広渕/鹿野勝幸

尼寺のベンガラ灯籠雪女郎   石巻市開北/ゆき

政局の行方睨むや鶚の目   東松島市赤井/志田正次

ありがたや朝陽配慮の笹の雪   石巻市わかば/千葉広弥

鬼ごっこ鬼ばっかりの冬帽子   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

冬眠の恥じらう鍬は赤く錆び   石巻市桃生町/佐藤俊幸

愚図る嬰に熊が来るぞと言ふじいじ   石巻市蛇田/石の森市朗

朝の雪昼には消える定めかな   石巻市三ツ股/浮津文好

寒の朝探して羽織る亡母の服   石巻市渡波町/小林照子


川柳(2/15掲載)

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【水戸 一志 選】


大雪が毎年十年一度と言う   石巻市大街道東/岩出幹夫

【評】正確な表現ではないだろうが、この感覚はよく分かる。この冬の大雪を含め、毎年どこかで豪雨災害が起きる。直前の天気予報が「数十年に一度クラス」と警告するケースのなんと多いことか。十年に一度が毎年ではたまったものではない。そう解釈。


恋愛でもらった妻に鬼は外   東松島市小野/櫻井光樹

アンケート答えたくない家電話   柴田町槻木/我妻すみ

負けたなら辞める当然一丁目   石巻市向陽町/佐藤功

張り上げた公約こだま返ってネ   石巻市蛇田/大山美耶紀

安青錦春も賜杯だ綱取りだ   東松島市矢本/山田昭義

愛も入れ息子に送る米五キロ   石巻市西山町/藤田笑子

和らいで鼻がムズムズ春が来る   石巻市美園/ひらやん


コラム: 世界の目はイタリアに

 1970年公開のイタリア映画「ひまわり」を見ました。冬季オリンピックの開催地とあって、現在世は空前のイタリア・ブームです。私も何年か前に旅行でイタリアを訪れたことがあります。

 大都市・ミラノは通過しただけで街中などは、あまりよく見学できなかったのですが、映画のラストシーンに登場するミラノ中央駅には足を運びました。駅は、映画のロケーションの頃と違って、すっかり近代的で新しくなっていましたが、大きさは映画の場面と変わりありません。今にも、ソフィア・ローレンと相手のマルチェロ・マストロヤンニが最後の言葉を交わす場面が出てきそうな気がしました。

 ミラノ大聖堂は、イタリア最大のゴシック様式の大聖堂で、1380年から約500年の歳月をかけて完成しました。135本の尖塔と3500体以上の彫刻が特徴的で、世界遺産にも登録されています。

 ミラノからちょっと離れていますが、見逃せないのがベネチア。英語ではベニスと言います。独特な街で、特徴は全く車がないということです。車道がないのです。「水の都」と称されるくらいで、ベニスの駅からは専ら歩くしかありません。

 大きな運河が二つほどありますが、一番大きく人々が集まるのは「大運河」(カナル・グランデ)にかかるリアルト橋です。最も有名な大理石の橋でそこからの眺めは素晴らしいもの。

 そこから歩いて20分ほど。この町で一番広いサンマルコ広場に出ます。ベネチア共和国の公式行事の場で、ナポレオンが「世界で最も美しい広場」と称えたと言われています。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)


短歌(2/8掲載)

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【斉藤 梢 選】


倍速で見落とし多く生ききしよ今日はスローで仲間とすごす  石巻市流留/大槻洋子

【評】今までどのように生きてきたのかと自らに問う時がある。その自問は、突然に思いつく時もあるし、何かのきっかけで湧いてくることもある。作者は「倍速で見落とし多く」生きて来たのではないかと、立ち止まる。詠むことは、気持ちを言葉で表現することであり、もし定型という表現方法を知らなければ、この作者の問いは、忘れられてゆくのかもしれない。「倍速」が「スロー」となるまでの心の変化が感じられ、今日は仲間とゆっくり過ごしてもいいと思うことは、ささやかな方向転換だろう。


除夜の鐘待てずに寝入るこのわれの齢(よわい)に勝てぬ老いの侘しさ  石巻市わかば/千葉広弥

【評】十二月三十一日の作者の心情が下の句に凝縮されて、読者に届く。できれば、除夜の鐘を聞いて、新しい年が来ることを実感したいと思っているのだが「待てずに寝入る」大晦日の夜。「齢に勝てぬ」という独白が本心を伝えている。老いるということを自覚しながらも生きてゆく人の現実を詠んでいる。元日の朝を迎えた作者の心に、新しい芽があることを願う。


農閑期いつもいつもの朝寝坊 厚い雲らが朝を教えず  石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】日が昇ると起きて働き、日が沈むと休むという暮らし。岩手県花巻市にある高村光太郎の旧居の高村山荘の日時計を、ふと私は思った。この歌の下の句の「朝を教えず」という作者独特の表現に惹かれる。


膨大な薬の仕分けせし夫に素直になれぬ我をいましむ  東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

【評】飲まなければならない薬の仕分けをしてくれることに感謝しているのに「素直になれぬ」作者。下の句に葛藤があり、夫への心の声として詠んだ一首。


早起きして父と作りし雪だるまちぐはぐの眼と杉のつけひげ  石巻市湊東/三條順子

手に取りぬ色薄き庭の沈丁花小さきつぼみを抱いて年越す  東松島市矢本/門馬善道

孫ふたりの短歌(うた)やうやうにまとめ上げ宝もの二冊わが動脈となす  石巻市開北/ゆき

糟糠の妻と八十路の夫婦坂互いに杖と手すりとなりて  石巻市蛇田/菅野勇

懐かしきものに出会えた気がしつつ霜柱踏む寒の細道  石巻市羽黒町/松村千枝子

牡蠣(かき)棚の杭(くい)の太さに雪の積む先端見えて入江ひそけし  女川町旭が丘/阿部重夫

松飾り下げて穏やかに明日待てば突然友の悲報が届く  東松島市矢本/川崎淑子

亡きネコのかわいい鳴き声したような庭のお墓におやつあげよう  東松島市矢本/畑中勝治

父ちゃんが大好きだった大相撲今は私が夢中で応援  石巻市大街道南/後藤美津子

筆苦手の友の年賀は電話なり掠れた声で老いを重ねる  東松島市赤井/茄子川保弘

終活はやらずに年を迎えたり思い出枯らさず冬空見上ぐ  石巻市渡波町/小林照子

数々の病名羅列し元気だと友の賀状に初笑いする  東松島市赤井/佐々木スヅ子

寒さにはだいぶなれたが春遠し冬眠している我が家の庭は  石巻市西山町/藤田笑子

初雪の白き頭巾の赤きバラほほゑみうかべ祝ひゐるなり  石巻市門脇/佐々木一夫


川柳(2/8掲載)

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【水戸 一志 選】


音量を上げて今夜は一人鍋   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】「一人鍋、最高ですよね。準備も片付けも楽で、好きな具材を独占できる贅沢」。スマホの検索にAIがそう回答した。孤独と向き合う一人鍋の説明が全くなかったのはちょっと意外。作者の句はどっちか。「音量を上げて」には涙がにじむ気配を感じるが。


豪雪地除雪の苦労思いやる   石巻市広渕/きよし

パンダさん日本がふるさと忘れないで   石巻市丸井戸/佐藤さくら

はこビュンで「ちゃきん」仙台駅デビュー   石巻市向陽町/すみれ

八十路爺初恋の君夢で逢う   石巻市三ツ股/上品夢好

妻の手を握って散歩照れ笑い   石巻市清水町/日陰のわらび

国民を窓外に置く選挙かな   石巻市駅前北通り/津田調作

川柳で憂さを晴らすや小市民   東松島市赤井/志田正次


俳句(2/1掲載)

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【石母田 星人 選】


木の芽風動き出したる耕土かな   東松島市あおい/大江和子

【評】4日は二十四節気の立春。よく見ると樹木の芽吹きも始まっている。膨らんだ芽を揺らす柔らかな風が、春の訪れを告げる。眼前には孫兵衛の手がけた耕土。その土の輝きに目覚めの息遣いを感じた作者。


薄闇の交換駅や受験の子   石巻市流留/大槻洋子

【評】上五の薄闇が巧み。ここは早朝とか夕暮でも分かるが、受験の子の心情につながる言葉で詠んだ。


どげんしたと博多のナース冬暖か   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

【評】「どげんしたと」は博多弁で「どうしたの」くらいの意。親しみやすく優しい響きでこのナースの人柄も分かりそうだ。季語「冬暖か」もぴったり。


冠雪の山々はるか冬銀河   石巻市小船越/芳賀正利

国訛両手で包む雑煮椀   松島町磯崎/佐々木清司

たてがみは忍の一字や寒立馬   多賀城市八幡/佐藤久嘉

作為なき文字の有様初硯   石巻市丸井戸/水上孝子

さつきまで孫らの声やごまめかむ   東松島市矢本/菅原京子

見得を切る寄り目掛け声初舞台   石巻市元倉/小山英智

朝まだき餅花ゆらぐ農はだて   石巻市桃生町/西條弘子

受験子の握るお守り青の色   石巻市流留/和泉すみ子

初挽きのモカの香りに包まれて   東松島市あおい/下山慶子

すりくるみ添へて賑はふ雑煮もち   石巻市渡波町/小林照子

初写真小さく丸く元気です   石巻市中里/川下光子

大国の攻撃またぞ三日かな   石巻市広渕/鹿野勝幸

ひとつ老いジムにマシンの初日の出   石巻市新館/高橋豊

鍬ふるう野生のごとく冬の空   石巻市桃生町/佐藤俊幸

山茶花の一花鎮もる千の蕾   石巻市開北/ゆき

早梅や思ひのままに綻びぬ   東松島市赤井/志田正次

公園のブランコに乗る春の風   石巻市蛇田/石の森市朗

お互ひに鱈の口して師走かな   石巻市二子/小松道男

成人の金襴緞子冬うらら   石巻市小船越/三浦順子

初詣産土神よ風の声   石巻市駅前北通り/小野正雄

獅子頭優雅な舞で春を呼ぶ   石巻市水押/小山信吾

偉大なる樹氷溶け出し山に春   石巻市清水町/日陰のわらび