【石母田 星人 選】
羽織紐とくや落語の寺の秋 石巻市流留/大槻洋子
【評】はなし家のしぐさを捉えた「羽織紐とく」が巧み。羽織を脱ぐのは本題に入るときが多く、客側も期待に胸を弾ませる瞬間だ。高座の外には寺の木々の紅葉。笑い声が色づいた葉を揺らしたに違いない。
手を離れブーケは空へ小六月 松島町磯崎/佐々木清司
【評】結婚式には多くの演出がある。キャッチした人が次に結婚できる、というブーケトスもその一つ。ブーケの描く放物線と真っ青な小春空が印象的だ。
丸皿に紅い釉薬冬支度 石巻市新館/高橋豊
【評】冬を迎えるにはつややかな紅丸皿が不可欠と詠む作者。陶芸家の冬支度はユニークで一味違う。
縄文のストーンサークル星月夜 石巻市湊/斎田流雲
盆栽の無形の構天の川 石巻市駅前北通り/小野正雄
ゲランドの塩の一粒鳥渡る 石巻市小船越/堀込光子
小春日の濤音沖へ帰りけり 石巻市中里/佐藤いさを
うしろから日差を浴びて障子貼る 石巻市小船越/芳賀正利
草の群れいい塩梅に冬支度 石巻市桃生町/佐藤俊幸
金木犀宙へ零れて瞬きて 東松島市矢本/田舎里美
廻診の白衣の香り秋来たる 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
たうらうに一宿貸して見送りぬ 石巻市丸井戸/水上孝子
満月を下りるか坂の部活の子 石巻市開北/ゆき
千歳飴けなげに祝詞聞いてゐる 東松島市あおい/大江和子
帆立焼くサンファン号の丘で焼く 多賀城市八幡/佐藤久嘉
三日月に夢二の浪漫腰をかけ 石巻市流留/和泉すみ子
ひとり居の秋思を断ちぬ木魚かな 石巻市広渕/鹿野勝幸
掻巻にくるまり夜の賢治かな 東松島市赤井/志田正次
旅一日草の実付けて戻りけり 石巻市桃生町/西條弘子
日は燦々駅裏道の秋ざくら 石巻市蛇田/石の森市朗
月見酒想ふ昭和に雲流れ 石巻市門脇/佐々木一夫
田畑終えこけしの里の湯治かな 石巻市元倉/小山英智
秋立つや牧師に習う英会話 石巻市渡波町/小林照子
秋雨や庭の草木も紅をさし 石巻市桃生町/西條和江
長き夜や手元にジョーカー持ったまま 東松島市矢本/菅原京子