短歌(12/17掲載)

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【斉藤 梢 選】


生き抜かんただ生き抜かん我が胸に赫々燃える朝日昇りぬ   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】短歌という定型は、ときに思いを受けいれる器になる。葛藤があり、思案があり、苦悩がありの生。生きていれば、親しい人を亡くしていたたまれない気持ちになることもあり、悲しみに塞ぐこともあるだろう。「ただ生き抜かん」という、心の深いところからの強い声。生と死を見つめる作者の今の心境がストレートに表現されていて、胸を打つ。「我が胸に」は、初句二句の意志を胸に置いてと解釈できるし、赫々と燃える朝日が胸に昇るようだとも読める。この歌は、これから生きてゆく作者を支える一首だとも思う。


七回目ワクチン終えて安堵すも旅への夢はテレビで満たす   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】ワクチン接種も、もう七回目。接種したのだから旅行にも行けると、心は自由になるはずなのに、やはり少しの不安を覚える作者。「安堵すも」には、その複雑な心情が表われている。旅をしたい願いを「旅への夢」と表現しているのがいい。テレビの旅番組を見て、旅をしている気分になり心も満たされる。それでも「旅への夢」を心に抱き続けている日々だろう。


雨風に震える野菊空見れば雁が呟く山は雪なり   東松島市赤井/茄子川保弘

【評】冬へと向かう季節を詠み、野菊の震えは寒さを伝える。そして、作者の視線は野菊から空へと移り、雁をとらえる。「呟く」という擬人化に説得力がある。里にも冬の訪れが近いことを知らせる「山は雪なり」。


日の落ちた暗い夜空を見詰めてる悠久の中私もここに   東松島市矢本/畑中勝治

【評】夜空を見詰めながら、その大いなる闇は悠久であると感じている作者。実感を詠む「私もここに」には余韻がある。長くこの歌に佇んで鑑賞したい。


震災後心に開(あ)いた風穴を埋めてくれしか三十一(みそひと)文字は   東松島市矢本/高平但

無農薬の重き白菜奥深く丸々として青虫眠る   石巻市流留/大槻洋子

八十の踊り場に立ち振り向けば悔いのいくつか居坐りてをり   石巻市中里/佐藤いさを

わたくしは日記にさえも嘘をつく自分を守り明日生きるため   石巻市流留/和泉すみ子

高台より河口の夕凪ながむれば黄金(くがね)の祝いや今日誕生日   東松島市矢本/川崎淑子

年ごとに増える青虫根競べ吾のピンセットひらひら動く   石巻市桃生町/佐藤俊幸

母は母の花どきを生き婚礼の白黒写真に瞳の清し   石巻市開北/ゆき

頑張るとは今をていねいに生きることうべないておりわが生れし日に   石巻市向陽町/後藤信子

庭すみに植えて幾年のりんどうよ今年はきれいにむらさき誇る   石巻市駅前北通り/津田調作

この初冬彩る紅葉に誘(いざな)われ時を忘れる朝の散歩道   石巻市南中里/中山くに子

道の辺の雑草(あらくさ)茂るその中にひときわ高き薊むらさき   石巻市駅前北通り/庄司邦生

病棟の洗濯機の音七時より朝食の香とともにある日々   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

小春日や夫の写真に語りかける今日の出来事ことこまやかに   東松島市大塩/木村はるみ

「ばあちゃんとそっくりだねぇ話し方」姪に言われて吾(あ)もそう思う   東松島市矢本/菅原京子