短歌(12/31掲載)

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【斉藤 梢 選】


「明るく」の文字の言霊我が胸にあれば青空の如く晴れやか   石巻市蛇田/菅野勇

【評】冬至は過ぎたけれども、12月は日暮れが早く、心も重くなりがち。そんな時に、この一首に出合った。作者の「青空の如く晴れやか」という気持ちが、読者にも届く。短歌を作る時に、私たちは多くの言葉の中から、自分の表現したい心情や光景に近づくようにと言葉を選ぶ。ひとつの言葉に励まされたり、ひとつの言葉が生きてゆく時の支柱になったりもする。「文字の言霊」としたのがいい。「短歌は一箇の小さい緑の古宝玉である」と北原白秋は記した。選び置く言葉は、作者の価値観をも伝えると思う。


朝日受け煌めきているもみじ葉にこうありたしと想い重ねる   石巻市南中里/中山くに子

【評】散る前の紅葉の煌めきを作者は見ている。昨年も作者は「もみじ」を詠んでいて、その秀作を私は覚えている。歌を詠む人たちは、四季が巡るごとに植物に心を寄せるけれど、毎年同じように表現するわけではない。「もみじ」の精一杯の色付きに心が動き、その姿に自身の生を重ねて「こうありたし」と希求する。朝日を受けた命の極まりは、このうえもなく美しい。


病葉(わくらば)を手の平にのせ空仰ぐ柿は実りて花は眠りて   石巻市西山町/藤田笑子

【評】手の平にのせるのは「病葉(わくらば)」。空を仰いでいる作者の心情を想像する。一枚の葉の命の果てを慈しんで生まれた詩情の「柿は実りて花は眠りて」だろう。空に灯るように在る柿の実。長く鑑賞したい一首。


一枚の暦に予定書き入れる師走の月は空き無く埋まる   東松島市赤井/茄子川保弘

【評】生活を詠む。師走の忙しさを、暦に書き入れる予定の多さで感じる作者。その日その時の暮らしを表現して残せるのは、定型が心にあるから。


弟の生死見つめた病棟に冬の朝日が真綿のごとく   石巻市あゆみ野/日野信吾

住み慣れし家にポッカリ空いた場所われが戻りてパズル完成   石巻市渡波/阿部太子

国境をさ迷い群るる難民の眸(め)に遥かなる鳥の羽ばたき   石巻市開北/ゆき

朝取りの鮭ぶらさげて冬ざれの浜路を急ぐあねさんかぶり   石巻市中里/佐藤いさを

廃線のレールの上にコスモス咲き吹かれ吹かれて旅路を終える   東松島市矢本/高平但

「だったね」の言葉やさしく聞こえくる同級生の輪にいて楽し   石巻市湊東/三條順子

小春日に丘に登ればはるかなる水平線に船は浮遊す   石巻市流留/大槻洋子

薄肌着白き袖口どの子らも見えて七五三の境内さむし   女川町旭が丘/阿部重夫

沈む陽に今日の健やか明日もと願いて鍬の土払いいる   石巻市桃生町/千葉小夜子

冬の夜静かに更けてテレビだけ明るく賑やかこれも年の瀬   東松島市矢本/畑中勝治

常緑の木犀の中の赤い房南天たわわ朝日に照りて   石巻市水押/阿部磨

名のみ知る友の知人の短歌(うた)見つけあれこれ友と楽しいひととき   東松島市赤井/佐々木スヅ子

再検査「問題なし」の通知あり折しも今日は孫の誕生日   東松島市矢本/菅原京子

幼き日布団三枚に六人が寄り添い眠りし冬の楽しみ   石巻市流留/和泉すみ子