コラム:春の花たち

 早春の花と言えば椿でしょう。英語では camelia 。日本における海岸近くの山中や、雑木林に生える代表的な野生種をヤブツバキと呼び、音読みは「チン」で、椿山荘(ちんざんそう)(東京・文京区)などの固有名詞に使われたりします。日本原産。北海道南西部、本州、四国、九州、南西諸島。北限は、青森県津軽郡平内町の夏泊半島で、椿山と呼ばれる1万株に及ぶ群落は、天然記念物に指定されています。

 梅も欠かせません。英語では" Japanese apricot "(日本の杏(あんず))と言いますが、花は plum と呼ばれることが多いようです。原産地は中国であり、一説には日本への渡来は弥生時代に朝鮮半島を経て入ったものと考えられています。

 春の花の代表は何と言っても桜でしょう。筆者の好きな映画に「二十四の瞳」(1954年)がありますが、その中では桜の花がたびたび登場。ひと頃、卒業式・入学式を欧米並みに秋に行った方がいいとの議論がありましたが、古い人間でしょうか、筆者は桜の下での式にこだわります。

 原作者の壺井栄は自身が戦時中を生きた者として、この戦争が一般庶民にもたらした数多くの苦難と悲劇を描いています。たびたび映画化されましたが、筆者は1954年のものが好きです。白黒映画ですが、桜の花が実に美しく描かれています。

 話を梅に戻しましょう。50年ほど前の2月、東京の深大寺に外国人の一行を案内したことが思い出されます。園内はちょうど梅の花が満開でした。白い花や紅色の花のトンネルをくぐって歩いたのを覚えています。

 凛とした空気と共にある季節です。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)