短歌(3/10掲載)

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【斉藤 梢 選】


好天はいっとき悲しみ忘れさす戦地、災害地の人びとも   東松島市矢本/川崎淑子

【評】曇りや雨の日よりも晴れの日のほうが、気持ちが前向きになる。特に冬の時期は、陽射しがありがたい。ロシアがウクライナへの侵攻を始めて2月24日で2年となったこともあり、作者は戦地の人々に心を寄せているのだろう。さらに、能登半島地震で被災した方々のことも思っている。3月1日で発生より2カ月。今も1万人以上が避難を余儀なくされているという。「いっとき」でもいいから、悲しみを忘れることができたらという願いが、この一首にはある。忘れることが「いっとき」もできないほどの悲苦であるから。


片付けをすればする程家広く二月の寒さ心まで沁みる   石巻市羽黒町/松村千枝子

【評】心理を詠む秀作。二月の寒い日に部屋の片付けをしている作者。「家広く」は実感。生活をしている部屋は暖められているけれども、その他の部屋は寒いのだろう。二月の片付けだから寒さが「心まで沁みる」。「片付け」は、特別な「片付け」なのかもしれないし、日々の暮らしの中でのことかもしれない。とにかく寒さの極まる二月は、心もかじかむ。


わが庭の紅燃ゆる南天葉 厳寒の中の鳥のプレゼント   石巻市蛇田/櫻井節子

【評】南天の実を食べた鳥が、その種子を運んでくれたから、この紅の葉は「鳥のプレゼント」。赤い実の南天は「難を転じて福となす」という縁起木でもあるので、なんだか「厳寒」であっても、心が明るむ。


曾孫来て座敷いっぱい遊び居る息子(こ)らも親なり孫も親なり   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】「息子(こ)らも親なり孫も親なり」には、しみじみとした感慨があり、「曾孫来て」の初句には、うれしさが。この時の93歳のまなざしは、とても優しい。


震災で浜の眺めの変わりしも磯に降り立ちしおり貝採る   東松島市矢本/高平但

冬空のリボンのやうなオリオンと散歩の季節またはじまりぬ   石巻市流留/大槻洋子

あっそうか 「鈴なり」とうはこのことか冬木に雀群がりており   石巻市駅前北通り/庄司邦生

眠る山に冬芽の息吹感じつつ春の花咲く日を待ちこがる   石巻市あゆみ野/日野信吾

冬の陽の落ちし水面(みなも)の鈍色にすなどり舟の急ぎ帰りぬ   石巻市中里/佐藤いさを

丼にニンニク入れて棚に置く芽の出る様子に五体鼓舞さる   石巻市不動町/新沼勝夫

オオイヌノフグリの花の咲きだして春来る土手の散歩のたのし   石巻市駅前北通り/工藤幸子

畑の土鍬にて起こす暖かさ名残惜しむや日陰の雪も   東松島市赤井/茄子川保弘

亡き夫の隠せしピース探すよに八十路の義姉(あね)とタイムトラベル   石巻市開北/ゆき

彩雲が空いっぱいに輝いて妻を呼び来て二人で縁側   東松島市矢本/畑中勝治

しわのない敷布にほほえむ母を看(み)た思い出に添い寝しているひとり娘(こ)   石巻市湊東/三條順子

良く眠り良く食べしゃべり好き勝手幼児のような老いの一日   東松島市赤井/佐々木スヅ子

庭すずめ風に凍えて羽根縮め早く来い来い桜の春よ   石巻市西山町/藤田笑子

ウォーキング春はそこまで来ているよすましてごらん足音聞ゆ   東松島市矢本/奥田和衛