俳句(4/14掲載)

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【石母田星人 選】


飽食の春にしみじみ塩むすび   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】戦後間もない子供の頃に頬張ったおいしさがよみがえったのかもしれない。中七の「しみじみ」が絶妙。この語の働きで、思い出した懐かしい感情が、塩むすびの中に再び深く染み込んでゆくのが分かる。


未来図は曲線多し梅の花   石巻市吉野町/伊藤春夫

【評】春、梅の花が最初に咲く。さきがけるということは他より早く先の未来を知るということ。未来は直線だけではない、と見事な枝ぶりが教えてくれる。


初桜スーツの折目一直線   東松島市あおい/大江和子

【評】新入社員だろうか。一直線の折目に緊張感が見える。ぴったりの季語「初桜」が門出をたたえる。


野火あがる一枚張りの峡の天   石巻市相野谷/山崎正子

震源の海を見てゐる春の雲   石巻市蛇田/石の森市朗

霾ぐもり沖の冷気に舳先向け   石巻市中里/佐藤いさを

春の星仰ぐ地上の長寿眉   石巻市小船越/芳賀正利

流鏑馬の的射る女性(ひと)や春うごく   石巻市丸井戸/水上孝子

遠き子よふるさとはいま茹でめかぶ   石巻市流留/大槻洋子

春よ来い子の赴任地は北海道   石巻市桃生町/西條弘子

香り立つ屋台囲みて初桜   東松島市矢本/雫石昭一

春と云ふ胸ふくらませ大空へ   石巻市門脇/佐々木一夫

茅葺を伝う炊煙里の春   石巻市元倉/小山英智

乗り合いに真子鰈釣る木の芽時   石巻市新館/高橋豊

卒業子遠慮しがちに髪染めて   石巻市広渕/鹿野勝幸

ソプラノの歌を今年も黄クロッカス   石巻市開北/ゆき

春暁やコインパークに常夜灯   松島町磯崎/佐々木清司

雑踏という懐かしさあり街四月   石巻市渡波町/小林照子

トラクターに古草絡む試運転   石巻市桃生町/佐藤俊幸

花冷や診察室の医師の声   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

春めきて雨さえ匂う見えずとも   石巻市流留/和泉すみ子

春一番背中丸めて青菜摘む   石巻市中里/鈴木登喜子

荒庭に白梅ひっそり咲きにけり   石巻市渡波/阿部太子

春風に笑みの止まらぬ入学生   石巻市駅前北通り/津田調作

菜の花や畑も徐々に賑わいて   東松島市矢本/奥田和衛