俳句(5/4掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田 星人 選】


雉鳴いて土手の黄の波むせ返る   石巻市蛇田/櫻井節子

【評】繁殖期は鋭く鳴く。声を聞いた後、黄の花の印象が一段と強くなった。景が鮮明に浮かび上がる。


ごつごつと武骨に生きて花は咲く   石巻市流留/大槻洋子

【評】エドヒガン系の桜だろう。中には千年以上の樹齢を誇る古木もある。ごつごつとした太い幹が迫力満点。樹勢衰えても薄紅色の花で優美な世界を見せてくれる。仰ぐ者はみな胸を打たれる。上五から中七は身近な誰かの生きざまを表しているのかもしれない。


モンキーのシンバル鳴り止まず黄砂   石巻市中里/川下光子

【評】困った黄砂。ここでは怒る猿の玩具と破調で巧みに表現。黄砂に滑らかな韻律は似合わないのだ。


啓蟄の萱原さわぐ追波川   石巻市新館/高橋豊

行く春や砂にきらめく魚の骨   石巻市中里/佐藤いさを

桜咲き蝦夷の郷も祭かな   石巻市小船越/芳賀正利

風の環の双葉の芽ぶく祈りかな   石巻市丸井戸/水上孝子

五機の曳く空の羽衣春告げる   東松島市矢本/田舎里美

銀の稚魚の散りゆく春の潮   松島町磯崎/佐々木清司

田植機や命の鼓動つむぐ音   東松島市あおい/大江和子

花曇り野点茶席の緋毛氈   東松島市赤井/志田正次

流れなき花の筏に吾を置き   石巻市駅前北通り/津田調作

峠道車窓彩る桜かな   石巻市元倉/小山英智

時流れ震災跡は春の闇   石巻市湊/斎田流雲

あの時も満天の星春の雪   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

終活の庭に紅梅ひっそりと   石巻市渡波/阿部太子

クラリネットの二重奏いま木の芽風   石巻市開北/ゆき

華やかさ踏まれて消える桜かな   石巻市水押/阿部磨

春光やほんの少しのまわり道   東松島市矢本/菅原京子

何よりも光が好きな犬ふぐり   石巻市向陽町/成田恵津美

子だぬきを里に誘うや春の風   石巻市小船越/堀込光子

花水木二十年目の華やかさ   石巻市流留/和泉すみ子

菩提寺の父のかたみの花の雨   石巻市真野/高橋としみ

われ背負ひ空襲の兄や春逝きぬ   石巻市広渕/鹿野勝幸

新緑の名もない沢の水しぶき   登米市津山/亀井繁次