【石母田 星人 選】
めまとひを払ひ語り部かたりたる 石巻市中里/佐藤いさを
【評】東日本大震災の記憶と教訓を伝える語り部。上五「めまとひ」は小さな羽虫のこと。ひと塊になり飛び回って人間の顔にまとわりつく。それを払ったという表現だけで、猛暑の中の厳しさが伝わってくる。
緋芍薬晶子のごとく飾りけり 石巻市小船越/堀込光子
【評】毎年飾る時は、晶子の<緋芍薬さします毒をうけしより友のうらやむ花となりにき>を口ずさむのだろう。感動した表現は心にすみついてしまうのだ。
地べた這い野生の感の素足かな 石巻市桃生町/佐藤俊幸
【評】畑などの土の上で素足になったのだ。足の裏からぬくもりに似た「野生」が、はいのぼってくる。
釉薬のふた色被せ清和かな 石巻市新館/高橋豊
立葵明日へ明日へと伸びて咲き 石巻市門脇/佐々木一夫
ゆつくりと風車の廻る麦の秋 石巻市桃生町/西條弘子
写真館イサムノグチの首夏の庭 石巻市丸井戸/水上孝子
月山に命はぐくむ岩清水 石巻市蛇田/石の森市朗
ギターやめば地球いっきに皐月の夜 石巻市流留/大槻洋子
掘りたての筍里の景連れて 東松島市矢本/田舎里美
夏野菜主役になりて道の駅 石巻市湊/斎田流雲
夏嵐空いつぱいに木々のこえ 石巻市流留/和泉すみ子
一年坊主またも歯が抜け柿の花 石巻市開北/ゆき
土の顔見たさに今日も草むしり 石巻市広渕/鹿野勝幸
故郷は燕帰れどがらんどう 石巻市蛇田/櫻井節子
原発の庭にほころぶ春のバラ 東松島市赤井/志田正次
おもたせは山の話とたかんなと 松島町磯崎/佐々木清司
花揺らし花粉まみれの大き蛇 石巻市小船越/芳賀正利
張り替へし網戸から見る庭景色 石巻市中里/川下光子
テノールの羽をひろげて川鵜かな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
明滅のリズム刻んでホタルとぶ 石巻市元倉/小山英智
父の日や作業着の影揺れ動き 東松島市あおい/大江和子
アロハシャツ介護ホームの音楽会 石巻市渡波町/小林照子
デイの名は花いちもんめ夏の雲 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
海鞘が来た夏の暑さと夕風と 石巻市駅前北通り/津田調作