【石母田 星人 選】
豊年や空鍋持つてガザの子ら 東松島市あおい/大江和子
【評】田や畑の収穫が最盛期を迎えた。その豊かな実りを前に、死と隣り合わせのまなざしを思った。
新涼や小さき石仏小さき橋 石巻市流留/大槻洋子
【評】「涼し」は夏の季語で、この句の「新涼」は秋の季語だ。猛暑の中では気にも留めなかった石仏や橋が、視野の中によみがえり、鮮やかに像を結んだ。
便箋の青ききちかう夜の秋 石巻市中里/川下光子
【評】「秋の夜」は秋の季語で、この「夜の秋」は夏の季語として使われている。晩夏の夜に感じる秋の気配といったところだ。身ほとりに漂い始めた秋が、キキョウの絵柄の便箋を選ばせたに違いない。
天高く大いなるもの遠くなる 石巻市駅前北通り/小野正雄
時惜しみ動く農夫や秋没日 石巻市新館/高橋豊
奔る霧よどむ霧あり千賀浦 石巻市中里/佐藤いさを
鍬を振る顔はタテヨコ村芝居 石巻市桃生町/佐藤俊幸
産毛にも微かな光朝の桃 松島町磯崎/佐々木清司
ひとつずつ我慢の坂に野菊咲く 石巻市中里/須藤清雄
生き返る干天の慈雨茗荷の子 石巻市蛇田/櫻井節子
旱天や貫入の這う枯渇ダム 東松島市赤井/志田正次
赤とんぼ一人はぐれて沈みをり 石巻市門脇/佐々木一夫
段畑の暮れきるまへのつくつくし 石巻市桃生町/西條弘子
万博や善美を尽くし空高し 石巻市元倉/小山英智
蜻蛉羽の朝日に遊ぶ雨上がり 石巻市小船越/堀込光子
蜂屋柿無数の花をこぼしけり 石巻市小船越/芳賀正利
秋声や足早に路地通り抜け 石巻市丸井戸/水上孝子
倒伏の稲にも力色づきぬ 石巻市広渕/鹿野勝幸
紫の式部に雨の滴りて 石巻市流留/和泉すみ子
山寺の蝉おさまりて虫の声 多賀城市八幡/佐藤久嘉
ふわふわのだし巻き卵秋うらら 石巻市湊/斎田流雲
枝豆の口弾く手に暇の無し 石巻市桃生町/西條和江
軒灯を消して聞き居る虫の声 石巻市駅前北通り/津田調作
すりおろすは古稀の武骨や初秋刀魚 石巻市開北/ゆき
秋暑し「サヨナラ勝ち」の文字おどる 東松島市矢本/菅原京子