俳句(10/5掲載)

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【石母田 星人 選】


豊年や空鍋持つてガザの子ら   東松島市あおい/大江和子

【評】田や畑の収穫が最盛期を迎えた。その豊かな実りを前に、死と隣り合わせのまなざしを思った。


新涼や小さき石仏小さき橋   石巻市流留/大槻洋子

【評】「涼し」は夏の季語で、この句の「新涼」は秋の季語だ。猛暑の中では気にも留めなかった石仏や橋が、視野の中によみがえり、鮮やかに像を結んだ。


便箋の青ききちかう夜の秋   石巻市中里/川下光子

【評】「秋の夜」は秋の季語で、この「夜の秋」は夏の季語として使われている。晩夏の夜に感じる秋の気配といったところだ。身ほとりに漂い始めた秋が、キキョウの絵柄の便箋を選ばせたに違いない。


天高く大いなるもの遠くなる   石巻市駅前北通り/小野正雄

時惜しみ動く農夫や秋没日   石巻市新館/高橋豊

奔る霧よどむ霧あり千賀浦   石巻市中里/佐藤いさを

鍬を振る顔はタテヨコ村芝居   石巻市桃生町/佐藤俊幸

産毛にも微かな光朝の桃   松島町磯崎/佐々木清司

ひとつずつ我慢の坂に野菊咲く   石巻市中里/須藤清雄

生き返る干天の慈雨茗荷の子   石巻市蛇田/櫻井節子

旱天や貫入の這う枯渇ダム   東松島市赤井/志田正次

赤とんぼ一人はぐれて沈みをり   石巻市門脇/佐々木一夫

段畑の暮れきるまへのつくつくし   石巻市桃生町/西條弘子

万博や善美を尽くし空高し   石巻市元倉/小山英智

蜻蛉羽の朝日に遊ぶ雨上がり   石巻市小船越/堀込光子

蜂屋柿無数の花をこぼしけり   石巻市小船越/芳賀正利

秋声や足早に路地通り抜け   石巻市丸井戸/水上孝子

倒伏の稲にも力色づきぬ   石巻市広渕/鹿野勝幸

紫の式部に雨の滴りて   石巻市流留/和泉すみ子

山寺の蝉おさまりて虫の声   多賀城市八幡/佐藤久嘉

ふわふわのだし巻き卵秋うらら   石巻市湊/斎田流雲

枝豆の口弾く手に暇の無し   石巻市桃生町/西條和江

軒灯を消して聞き居る虫の声   石巻市駅前北通り/津田調作

すりおろすは古稀の武骨や初秋刀魚   石巻市開北/ゆき

秋暑し「サヨナラ勝ち」の文字おどる   東松島市矢本/菅原京子