【石母田 星人 選】
対岸の枯蘆原に雨の音 石巻市小船越/芳賀正利
【評】「枯」は新鮮さや勢いの喪失の意だが、この句では雨音の増幅装置のようだ。これぞ石巻の音。
時雨虹エッセイ集の届きたる 石巻市小船越/堀込光子
【評】前回入選の<畔行けば時雨の作る虹二重>を推敲(すいこう)し直した一句。前回作は季語時雨虹の説明にすぎなかった。だがこの句は、届いたエッセイ集を通して新たな角度から時雨虹に迫っている。読後感や装丁の美など、つかみとった感動を虹の姿と重ね合わせた。
四枚の鞐てまどる神の留守 石巻市流留/大槻洋子
【評】「鞐(こはぜ)てまどる」だけで、久しぶりの和装だと分かる。思いもよらずはいた白足袋。想像が膨らむ。
網地島は祈りのかたち鳥渡る 多賀城市八幡/佐藤久嘉
鮟鱇鍋老いの仕立を疑わず 石巻市中里/佐藤いさを
今朝の冬霧の触手を招き入れ 松島町磯崎/佐々木清司
慰霊碑や今年もふわり綿虫来 石巻市新館/高橋豊
枯枝を鳥影チョコリ移りたり 石巻市丸井戸/水上孝子
山塊を貫く鉄路冬に入る 石巻市駅前北通り/小野正雄
日の温み四角く丸く冬座敷 東松島市矢本/菅原京子
散紅葉水底までも紅く染め 石巻市門脇/佐々木一夫
出漁期耳を劈(つんざ)く鰤起こし 東松島市赤井/志田正次
北国の女医の献身波の花 東松島市あおい/大江和子
時雨来る先着順のバスの席 石巻市桃生町/西條弘子
朝市に訛り飛び交い冬浅し 石巻市湊/斎田流雲
木枯しや老いを笑いつ吹き通る 石巻市駅前北通り/津田調作
ぽっかりと意識はぬけて紅葉散る 石巻市桃生町/佐藤俊幸
張り手技何か好まず花八つ手 石巻市渡波町/小林照子
あの頃の大事なおやつ柿たわわ 石巻市広渕/鹿野勝幸
星月夜ほとばしる句は母譲り 石巻市小船越/三浦順子
通学路御辞儀忙し枯尾花 石巻市元倉/小山英智
毛糸編む病持つ友一心に 石巻市流留/和泉すみ子
薄日さす狭庭を闊歩黄色蝶 東松島市矢本/田舎里美
天高し言語リハビリあいうえお 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
出てこない友の名前や小鳥来る 石巻市中里/鈴木登喜子