短歌(2/22掲載)

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【斉藤 梢 選】


草の芽の頭なでればほとほとと春を感じる皺の指先  石巻市門脇/佐々木一夫

【評】春が近づいてきたことを実感しての一首。秋が短かった昨年、これからは四季ではなく二季になるのでは、という惑いも生まれた。でも、土の中では春への準備がされていて、植物はしっかりと約束を守って芽を出す。「頭なでれば」には、作者の芽を愛おしむ心持ちがあり「ほとほとと」というオノマトペが感覚をよく表現している。人生を長く生きてきたからこその経験により選んだ結句の「皺の指先」が、なんとも味わい深い。歌材は、こんなにも身近にあるのだ。


巡る春あの日の日記の走り書き「三月十一、大津波」だけ  東松島市矢本/門馬善道

【評】春を待つ心に一つの影がある。三月十一日に発災した東日本大震災。もうすぐ、あれから十五年。「走り書き」の言葉が、あの未曾有の災禍を今に伝えている。被災した人にとっては、おそらく「風化」は一生涯ありえない。被災は、あの日からずっと続いている。地域は復興しただろうが、心の中はそんなに簡単には切り替えられないのではないかと。この作品の「だけ」を、考えながら今年も春へと歩む作者か。


葉を失くしねず色の枝(え)の裸木の薫風までの力を思ふ  石巻市開北/ゆき

【評】裸木の表面には見えていないけれども、日々育まれている生命の真の力に思いを馳せている。「薫風までの」の具体が優れていて、この裸木にある「力」は作者をも勇気づけているに違いない。


九ちゃんは持っていませんスマートフォン上を見上げて歩いてごらん  石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】坂本九が「上を向いて歩こう」を初披露したのは一九六一年。この歌に励まされてきた人は多い。<歩きスマホ>よりも「見上げて」という作者の声。


ビニールの冬のハウスは寒知らず春を掴んで人参発芽す   石巻市桃生町/佐藤俊幸

昨日風、今日には雪が自己主張明日の私は何を示すか   石巻市蛇田/櫻井節子

いさぎよく裸となれる冬木立生き残る術は自分で学ぶ   石巻市流留/大槻洋子

冬の陽の優しさ明るさうらめしく二人の友を失いしゆえ   東松島市矢本/川崎淑子

背中押す言葉たくさんくれし伯母「またね」に振る手白くか細し   東松島市矢本/菅原京子

毛糸の紐付きし手編みの手袋や悴む指に母のぬくもり   東松島市赤井/志田正次

霜の朝土を持ち上げ水仙の新たな生命(いのち)顔を覗かす   東松島市赤井/茄子川保弘

風花舞い梅のつぼみもまだ固く聞こえてくるは鹿の声のみ   石巻市高木/鶴岡敏子

新年に望みは何と問われても願いは言えどいつもかなわず   石巻市中里/のの花

時を経て本を開けば印あり探さず見つかるウォーリーが   女川町浦宿浜/阿部光栄

春が来る垣根を越えて尾根越えて桜の花を土産に持ちて   東松島市矢本/奥田和衛

今朝の空目には見えぬが強い風吹いているんだ木々が揺れてる   東松島市矢本/畑中勝治

ムズムズと七年かかった小さな芽小声で励ますカタクリの花を   石巻市西山町/藤田笑子

帰省の孫帰りし後の家の中前にも増して静寂深まる   石巻市蛇田/菅野勇