短歌(2/8掲載)

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【斉藤 梢 選】


倍速で見落とし多く生ききしよ今日はスローで仲間とすごす  石巻市流留/大槻洋子

【評】今までどのように生きてきたのかと自らに問う時がある。その自問は、突然に思いつく時もあるし、何かのきっかけで湧いてくることもある。作者は「倍速で見落とし多く」生きて来たのではないかと、立ち止まる。詠むことは、気持ちを言葉で表現することであり、もし定型という表現方法を知らなければ、この作者の問いは、忘れられてゆくのかもしれない。「倍速」が「スロー」となるまでの心の変化が感じられ、今日は仲間とゆっくり過ごしてもいいと思うことは、ささやかな方向転換だろう。


除夜の鐘待てずに寝入るこのわれの齢(よわい)に勝てぬ老いの侘しさ  石巻市わかば/千葉広弥

【評】十二月三十一日の作者の心情が下の句に凝縮されて、読者に届く。できれば、除夜の鐘を聞いて、新しい年が来ることを実感したいと思っているのだが「待てずに寝入る」大晦日の夜。「齢に勝てぬ」という独白が本心を伝えている。老いるということを自覚しながらも生きてゆく人の現実を詠んでいる。元日の朝を迎えた作者の心に、新しい芽があることを願う。


農閑期いつもいつもの朝寝坊 厚い雲らが朝を教えず  石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】日が昇ると起きて働き、日が沈むと休むという暮らし。岩手県花巻市にある高村光太郎の旧居の高村山荘の日時計を、ふと私は思った。この歌の下の句の「朝を教えず」という作者独特の表現に惹かれる。


膨大な薬の仕分けせし夫に素直になれぬ我をいましむ  東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

【評】飲まなければならない薬の仕分けをしてくれることに感謝しているのに「素直になれぬ」作者。下の句に葛藤があり、夫への心の声として詠んだ一首。


早起きして父と作りし雪だるまちぐはぐの眼と杉のつけひげ  石巻市湊東/三條順子

手に取りぬ色薄き庭の沈丁花小さきつぼみを抱いて年越す  東松島市矢本/門馬善道

孫ふたりの短歌(うた)やうやうにまとめ上げ宝もの二冊わが動脈となす  石巻市開北/ゆき

糟糠の妻と八十路の夫婦坂互いに杖と手すりとなりて  石巻市蛇田/菅野勇

懐かしきものに出会えた気がしつつ霜柱踏む寒の細道  石巻市羽黒町/松村千枝子

牡蠣(かき)棚の杭(くい)の太さに雪の積む先端見えて入江ひそけし  女川町旭が丘/阿部重夫

松飾り下げて穏やかに明日待てば突然友の悲報が届く  東松島市矢本/川崎淑子

亡きネコのかわいい鳴き声したような庭のお墓におやつあげよう  東松島市矢本/畑中勝治

父ちゃんが大好きだった大相撲今は私が夢中で応援  石巻市大街道南/後藤美津子

筆苦手の友の年賀は電話なり掠れた声で老いを重ねる  東松島市赤井/茄子川保弘

終活はやらずに年を迎えたり思い出枯らさず冬空見上ぐ  石巻市渡波町/小林照子

数々の病名羅列し元気だと友の賀状に初笑いする  東松島市赤井/佐々木スヅ子

寒さにはだいぶなれたが春遠し冬眠している我が家の庭は  石巻市西山町/藤田笑子

初雪の白き頭巾の赤きバラほほゑみうかべ祝ひゐるなり  石巻市門脇/佐々木一夫