【石母田 星人 選】
手渡しに若布を買うて浜の市 石巻市桃生町/西條弘子
【評】句意は明瞭。この時季恒例の「浜の市」で、若布を買ったのだ。この句が強調したいのは「手渡しに」の上五。この表現があることで、売り手の表情や声が分かる。さらに市全体のにぎわいも感じ取れる。
黄水仙「風の電話」の十五年 東松島市赤井/志田正次
【評】岩手の大槌にある「風の電話」。あの電話が果たした役割と意義を、黄水仙の花言葉「私のもとへ帰って」「もう一度愛してほしい」を絡めて問う。
万歩計ずっと春風ついてくる 石巻市渡波町/小林照子
【評】ずっと寄り添う春の風。おかげで歩くことが苦にならず、応援されているような気分なのだろう。
奇跡とは春の海より帰る骨 石巻市蛇田/石の森市朗
壊滅の記憶は消えず春の雪 石巻市小船越/堀込光子
春の海底の津波を訝りぬ 多賀城市八幡/佐藤久嘉
夢の間に十五年経て窓の梅 石巻市二子/小松道男
浅蜊取り水平線にある記憶 松島町磯崎/佐々木清司
生き居るにあの日が消えない十五年 石巻市駅前北通り/津田調作
春の風慰霊碑ふわりとつつみおり 石巻市流留/和泉すみ子
大漁や帰る港は春夕焼 石巻市向陽町/大渡清
鞦韆や腕を櫂に空ひらく 東松島市矢本/田舎里美
春休み親子連れなる萬画館 石巻市門脇/佐々木一夫
この頃は口元ずっと早春賦 東松島市矢本/菅原京子
春雨や大河の流れきよらかに 石巻市小船越/芳賀正利
春宵やみすゞ詩集を拡げみる 石巻市丸井戸/水上孝子
手袋にユーカリの香のまだ残る 石巻市流留/大槻洋子
蝋梅や恥ずかしさうに塀の中 石巻市新館/高橋豊
冬薔薇とげの深紅にまづ唯我 石巻市開北/ゆき
参拝の鈴の音やさし春の風 石巻市元倉/小山英智
春灯やきらきら星のピアノ曲 石巻市中里/川下光子
草若葉その勢いの鍬を持つ 石巻市桃生町/佐藤俊幸
日々暮す人は旅人春夕焼 東松島市あおい/大江和子
理不尽なニュースが多し春めきて 石巻市広渕/鹿野勝幸
ベランダの満艦飾に春の風 石巻市わかば/千葉広弥