短歌(5/17掲載)

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【斉藤 梢 選】


息子(こ)の齢止まりて早も六年目朝の挨拶今なお涙   石巻市南中里/中山くに子

【評】母親にとって、子に先立たれることほど辛いことはないと思う。この一首の「止まりて」が長く心に留まる。他の表現でもいいのだが「逝く」「命が果てる」「死」「亡くなる」という言葉をあえて使わずに「齢止まりて」とした作者の胸中を察する。おそらく、生きていたならば今年は○○歳というように、子の齢を数えて毎日を暮らしているのだろう。「今なお涙」のこの7音は、想像もできないほどの悲しみを包んでいる結句。心情を表すためには多くの言葉が必要ではないことを、この作品から学んだ。


枯れたかと見える花木が芽吹きおり諦め不要を我に教える   石巻市鹿又/門間典彦

【評】植物の生きている姿は、命そのものの有り様を私たちに無言で示してくれる。枯れてしまったように見える花木に見つけた「芽吹き」。冷静に詠んでいるけれど、作者は感動したに違いない。外見だけで判断せずに、花木に心を寄せて接することを教えてくれる歌は、作者の謙虚さによって成る。この「芽吹き」が、作者のこの春を生きゆく力となるのだとも思う。


折目なき古本買へば鉛筆の吾に似た字の書き込みひとつ   石巻市流留/大槻洋子

【評】数ある本の中から、作者が選んで求めた一冊。折目はないけれど、確かに誰かが読んだという証の「書き込みひとつ」。同じ本を読むという心温まる出合い。紙をめくることの豊かさを再認識できる歌。


待合室思考時間はたっぷりと三十一(みそひと)文字(もじ)が駆け巡るのみ   石巻市蛇田/菅野勇

【評】診察を待つ間に頭の中を文字が駆け巡る。けれども結びは「のみ」。この「のみ」がリアル。言葉を探し選びつつ一首にしたいと試みる道程が大切。


今朝見れば土に割れ目の幾筋かいよよ芽出しかじゃがいもの畑   石巻市羽黒町/松村千枝子

盛夏待つ白砂青松白南風の蘇り乞う野蒜のあの夏   東松島市矢本/門馬善道

過去呼べば幼の浜と魚取り妻との今日も明日(あした)は過去に   石巻市駅前北通り/津田調作

九条の言霊が好き鳩が好き震災を経て平穏が好き   多賀城市八幡/佐藤久嘉

世の中との関わり捨てた青虫の悟りのねむり冬を生き抜く   石巻市桃生町/佐藤俊幸

さくらさくら複数形の花たちの翔ぶように散るひとひらの君   石巻市あゆみ野/日野信吾

受けとめし病なれども日々の中もどかしさに泣き悔しさつのる   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

眠る田を起こせば土の黒々と卯月へ皐月へ脈打ち始む   東松島市矢本/田舎里美

訃報欄同期の名あれば愕然と学びし時の思いに浸たる   石巻市不動町/新沼勝夫

妹の遠くにありて半世紀涙声聞く電話のむこう   石巻市流留/和泉すみ子

思い知る花の命のはかなさよ桜の花びら路傍に散って   東松島市矢本/畑中勝治

池の鯉水中からの花見なり庭の桜も花びら贈る   東松島市赤井/茄子川保弘

喧嘩して君と久しく会話なく耐え切れずしてごめんねと詫びる   石巻市門脇/中沢定子

福寿草役目を終えて夢心地黄金を畳み次の春まで   石巻市二子/小松道男