短歌(5/31掲載)

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【斉藤 梢 選】


スーパーでなくて何処かに出掛けたい爪の光の美しい日は   石巻市湊東/三條順子

【評】「何処かに出掛けたい」と思う日が、きっと誰にでもあるだろう。暮らしのための必要品を買うために行くスーパーではなくて、もっと違う空間に行き、いつもとは違う光景を見たいと作者は望む。永六輔作詞の「遠くへ行きたい」をふと私は思い出す。自然に湧きくる心情を、鮮度が落ちないうちに表現しているところが優れている。「爪の光の美しい」は、マニキュアの塗りたてか「爪」そのものが美しいことに気付いた時か。日常詠であるのに、下の句が魅力的。


歩道へとのびたユーカリ指先に香りいただく連休の朝   石巻市流留/大槻洋子

【評】作者は歩道を歩いていて、ユーカリの葉と遭遇する。朝の空気の清々しい五月、爽やかな香のする葉が指先に触れる。この悦びを「香りいただく」と表現しているところがとても奥ゆかしい。「触れる」をあえて使わない方法も良いと思う。この一首は結句を「連休の朝」としたことで、読みに深みが加わる。連休の過ごし方はそれぞれであろう。作者にとっては、このようなささやかな出来事こそが幸。


青い鯉空いっぱいに泳いでるあの日忘れぬ五〇〇匹もが   東松島市矢本/畑中勝治

【評】「青い鯉のぼりプロジェクト」を詠む。亡くなられた子らへの供養と、子らの健やかな成長を願って泳ぐ青い鯉のぼり。東日本大震災より十五年。「あの日忘れぬ」の言葉が心底にずしりと届く。


終わらないもっともっとの欲ばかり足るを知るなんて悟りたくない   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】「欲」にもいろいろある。この作品の「欲」は未来への前向きさがあるゆえの「欲」だろう。「悟りたくない」の率直さ。自身の生き方を模索する歌。


蔵屋敷木々の緑と競う花 鳥のさえずり庭に流れる   東松島市赤井/茄子川保弘

何事もなくカーテンを開け閉めるかかる平安しみじみ思ふ   石巻市あゆみ野/日野信吾

歳嵩み私はわたしと割り切れど朝に夕にと空気が変わる   石巻市駅前北通り/津田調作

知人より殻付き牡蠣を頂いてそのまま焼いて海ごと味わう   石巻市蛇田/菅野勇

生きること一人ぼっちのたそがれを歩き続ける病とともに   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

改めて血の繋がりを認め知る叔父逝きて集う身内誰彼   東松島市矢本/門馬善道

花は葉に桜は木へと戻るとも過去形ふゆる未来もゆかし   石巻市開北/ゆき

一斉に園から昇った風船は風か祈りか海辺の方へ   多賀城市八幡/佐藤久嘉

つれあいが病に臥せば今更に家事に尽くした労苦に感謝   石巻市わかば/千葉広弥

万物が芽吹く五月の喜びやドイツの春は突然に来る   東松島市赤井/志田正次

丹念に取ったつもりの庭の草細き根一本確と大地に   石巻市二子/北條孝子

紫のつつじの上を飛ぶ揚羽つがいかしらと微笑み眺む   石巻市羽黒町/松村千枝子

病床の窓よりながむる工場の煙たなびく東に西に   石巻市中里/のの花

すずらんは甘い香りを漂わせ幸せのベル鳴らしているよ   石巻市大街道南/後藤美津子