短歌(7/12掲載)

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【斉藤 梢 選】


人参の色が私に問いかける今日も生きよと声なき声で   石巻市南中里/中山くに子

【評】木のまな板の上に人参が一本ある。この光景を画家ならばどう描くだろう。忠実に対象を捉える人と、抽象画的にする人も。何かを見た時に何を感じるかによって、描き方も詠み方も違ってくる。作者は、目の前にある人参の色に生命力を感じ得た。「問いかける」が「今日も生きよ」になるまで、誰も聞くことができない人参との言葉が交わされたのだろう。この一首の優れたところは「色」としたこと。生活の中にあるものの一つが思いがけなく、滋養となることもある。人参の色の励ましに気づく作者の純真な精神。


一度きり種は発芽のその時に一マス程度の土に従う   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】「その時」を詠む一首。種を蒔き、実りの時を迎えるまでの、「種」と「土」との人間が知り得ない∧共同作業∨を思う。「発芽のその時に」「土に従う」という表現に、改めて自然と農について知る。作者の経験が生み出した真理の「土に従う」。天候不順による野菜の値段の高騰などが、話題になる昨今であれば、農を営む人たちの日々の作業に頭が下がる。そして、人もまた心の土壌を大切にしなければと願う。


雉鳴いてホトトギス声を響かせる上手い下手など競うこと無く   石巻市鹿又/門間典彦

【評】雉もホトトギスも唯一の声で鳴く。最も表現したいことは「競う事無く」。この作品を詠んだ背景には、「競う」や闘うという社会状況があるのでは。


安否知る手段の一つの入選歌だから続けよと友は無理言う   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】歌を詠むにも体力が要る。新聞の「短歌」欄に作品が載ることが「安否知る手段」と言う友。歌は「生の証明」なので、これからも作者らしい一首を。


もう二度と会えぬ別れのさよならと明日また会える今日のさよなら   石巻市あゆみ野/日野信吾

一枚の地図を買うため乗る電車レールのひびきは山への序章   石巻市流留/大槻洋子

花花のうつろい眺めて暮らす日々散り行くものに輪廻を想う   東松島市矢本/川崎淑子

浜辺にて拾いし貝殻描けども潮のかおりが見えぬさびしさ   石巻市湊東/三條順子

けなげにも風に煽られ絹さやが耐え忍びおり我に学べと   東松島市大曲/瀬戸隆雄

ウォーキングマスクはずせば生の風わっと香るは沈丁花の香   東松島市矢本/田舎里美

山鳩の声の聞こえてのどかなり初夏のそよ風頬を撫でゆく   石巻市不動町/新沼勝夫

三叉の花の咲く木に初蝶が蜜を求めて暫しとどまる   石巻市桃生町/千葉小夜子

癒えし眼に沁み入る如き赤きばら白内障よ永久にさよなら   石巻市門脇/佐々木一夫

寝がえりもできぬいたみのこの身体ここち良き眠り一夜(ひとよ)でも欲し   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

衣更え白い人波朝の駅声弾ませて笑顔行くなり   東松島市赤井/茄子川保弘

新しいシーツに包まれ休む夜は新しい夢きっと待ってる   東松島市矢本/畑中勝治

父の日に双子の娘(こ)より贈られし服とベルトで腰らくになり   石巻市二子/小松道男

「体調は」にまずまずですと答えれば次回の予約で診察終わる   石巻市向陽町/大渡清