【斉藤 梢 選】
虫食いの大根の葉が我睨む虫に食われる痛みわかるか 石巻市桃生町/佐藤俊幸
【評】虫に食われた大根の葉に「痛みわかるか」と睨まれている作者。この一首に出合うまで「痛み」に気づくことが無かったことに、私は申し訳なく思う。大根の葉は栄養豊富なので、収穫後は葉と油揚げを炒めて食べることが多かったが、スーパーで葉つき大根を見かけることはほとんど無くなった。葉をつけたままにしておくと、大根の瑞々しさがなくなってしまうので、切り落とされて売られている。大地からの賜り物の大根の葉の声を聞き取り、心を寄せている作品。
濁点のつく鳴き声を空に散らし追ひつ追はれつ鴉飛びをり 東松島市矢本/田舎里美
【評】カラスは鳴くことによって仲間に情報を伝えると言われている。作者が聞いた鳴き声は、はたして何を伝えようとしていたのか。耳で聞いたカラスの声を言語で表現しようとして選んだ言葉の「濁点のつく鳴き声」が印象的。「空に散らし」という感覚的な捉え方もまた、その時を伝えている。「鴉」のみを詠んでいる独特な作品であり、空の広さや深さ、そして高さまでもを想像させてくれる。
樹々世界 夏は着衣で冬脱衣われには解せぬ人類との差異 石巻市わかば/千葉広弥
【評】気づきの歌。人は夏には暑さに耐えられず薄着になり、衣服を脱ぎたくもなる。しかし、樹はそうではない。4月からは「酷暑日」という用語が加わった。8月の欅の緑の濃さに人との「差異」を感じる。
あでやかに咲きしあやめの花なれば命散らさずしをれゆくなり 石巻市門脇/佐々木一夫
【評】あやめの花は舞い散らずに、静かに萎れ崩れて終焉となる。咲き盛りの短さゆえに美しい。「しをれゆく」姿への作者の情感が伝わってくる。
七月の海は静かに深緑お供えのごとくカキ殻並ぶ 石巻市流留/大槻洋子
鬼百合はその名のように力あり燃ゆる酷暑になお赤く立つ 東松島市矢本/川崎淑子
ベランダにて月の兎に聞いてみる地球はほんとに健康ですか 石巻市あゆみ野/日野信吾
自力では解決出来ぬ事に悩む我に喝入れ今日も始まる 東松島市赤井/佐々木スヅ子
海水を被(かぶ)りし椅子も部屋に居る場ちがいですがイーゼルの前 石巻市湊東/三條順子
夏の庭手入れの程を眺め見る父の姿がふと浮かぶ午後 石巻市鹿又/門間典彦
「夏ですね」鳴子こけしに父母を呼ぶキュキュと鳴らせば「転びなさんな」と 石巻市渡波町/小林照子
帰り道低空飛行の夏ツバメ車を誘導してるかのよう 石巻市水押/佐藤洋子
ポケットに義父(ちち)の相棒ハーモニカ得意気な顔で吹いて聞かせた 石巻市門脇/中沢定子
人生はいつでもどこでも登り坂気は許すなよ下り坂でも 東松島市矢本/畑中勝治
あじさいの色様々に咲く道をあの震災時愛でる気もなく 東松島市矢本/門馬善道
朝顔の夏の挨拶早々と一輪ながら暑さ知らせる 東松島市赤井/茄子川保弘
押し花の出来ばえどの花くらべっこ額に飾ればプロの押し花 石巻市西山町/藤田笑子
風もなくおだやかな日が暮れんとす西瓜の花の黄が咲き出した 石巻市高木/鶴岡敏子