短歌(8/9掲載)

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【斉藤 梢 選】


虫食いの大根の葉が我睨む虫に食われる痛みわかるか   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】虫に食われた大根の葉に「痛みわかるか」と睨まれている作者。この一首に出合うまで「痛み」に気づくことが無かったことに、私は申し訳なく思う。大根の葉は栄養豊富なので、収穫後は葉と油揚げを炒めて食べることが多かったが、スーパーで葉つき大根を見かけることはほとんど無くなった。葉をつけたままにしておくと、大根の瑞々しさがなくなってしまうので、切り落とされて売られている。大地からの賜り物の大根の葉の声を聞き取り、心を寄せている作品。


濁点のつく鳴き声を空に散らし追ひつ追はれつ鴉飛びをり   東松島市矢本/田舎里美

【評】カラスは鳴くことによって仲間に情報を伝えると言われている。作者が聞いた鳴き声は、はたして何を伝えようとしていたのか。耳で聞いたカラスの声を言語で表現しようとして選んだ言葉の「濁点のつく鳴き声」が印象的。「空に散らし」という感覚的な捉え方もまた、その時を伝えている。「鴉」のみを詠んでいる独特な作品であり、空の広さや深さ、そして高さまでもを想像させてくれる。


樹々世界 夏は着衣で冬脱衣われには解せぬ人類との差異   石巻市わかば/千葉広弥

【評】気づきの歌。人は夏には暑さに耐えられず薄着になり、衣服を脱ぎたくもなる。しかし、樹はそうではない。4月からは「酷暑日」という用語が加わった。8月の欅の緑の濃さに人との「差異」を感じる。


あでやかに咲きしあやめの花なれば命散らさずしをれゆくなり   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】あやめの花は舞い散らずに、静かに萎れ崩れて終焉となる。咲き盛りの短さゆえに美しい。「しをれゆく」姿への作者の情感が伝わってくる。


七月の海は静かに深緑お供えのごとくカキ殻並ぶ   石巻市流留/大槻洋子

鬼百合はその名のように力あり燃ゆる酷暑になお赤く立つ   東松島市矢本/川崎淑子

ベランダにて月の兎に聞いてみる地球はほんとに健康ですか   石巻市あゆみ野/日野信吾

自力では解決出来ぬ事に悩む我に喝入れ今日も始まる   東松島市赤井/佐々木スヅ子

海水を被(かぶ)りし椅子も部屋に居る場ちがいですがイーゼルの前   石巻市湊東/三條順子

夏の庭手入れの程を眺め見る父の姿がふと浮かぶ午後   石巻市鹿又/門間典彦

「夏ですね」鳴子こけしに父母を呼ぶキュキュと鳴らせば「転びなさんな」と   石巻市渡波町/小林照子

帰り道低空飛行の夏ツバメ車を誘導してるかのよう   石巻市水押/佐藤洋子

ポケットに義父(ちち)の相棒ハーモニカ得意気な顔で吹いて聞かせた   石巻市門脇/中沢定子

人生はいつでもどこでも登り坂気は許すなよ下り坂でも   東松島市矢本/畑中勝治

あじさいの色様々に咲く道をあの震災時愛でる気もなく   東松島市矢本/門馬善道

朝顔の夏の挨拶早々と一輪ながら暑さ知らせる   東松島市赤井/茄子川保弘

押し花の出来ばえどの花くらべっこ額に飾ればプロの押し花   石巻市西山町/藤田笑子

風もなくおだやかな日が暮れんとす西瓜の花の黄が咲き出した   石巻市高木/鶴岡敏子