河北新報特集紙面2025
2026年4月15日 河北新報掲載
被災の知見から学び、命を守るための術を。
被災の知見から学び、
命を守るための術を。
今できることプロジェクトは東日本大震災の風化にあらがい、
東日本大震災の記録と防災の学びを広く伝え、
災害から命を守る活動に取り組む人にフォーカス。
実際に現地を訪ねて学ぶ取り組みを繰り返してきました。
発災から15年。遠ざかりつつある被災の記憶を取り戻し、
語り継ぐべき教訓を継承する活動は共感の輪を広げています。
2025年度も、3つのテーマでプログラムを実施。
河北新報の読者、賛同企業の方々、たくさんの一般参加者とともに
得られた成果の数々をこの紙面で報告します。
- 賛同企業・一般参加プログラム
- 仙台市 減災推進課×
今できることプロジェクト
都市型災害に備えるスキルを磨く
防災・減災ワークショップ - 協力/仙台市危機管理局 防災・減災部 減災推進課
万全の備えを心がけ
発災時に正しい行動をとるための
スキルを習得
仙台市危機管理局減災推進課の協力を得て、災害リスクへの理解を深めながら、大規模な自然災害の発生時に推奨される在宅避難や、帰宅困難者とならないための備えなどを学ぶ、実践型ワークショップを2回開催。災害に対する意識の向上とともに、それぞれが防災対策を講じておく重要性を知ることができました。
- 第1回 豪雨災害編
- 第1回のワークショップは、洪水や土砂災害、住宅への浸水など、さまざまなリスクをはらむ「豪雨災害」をテーマに、昨年11月18日に実施しました。仙台市防災・減災アドバイザーの早坂政人さんが登壇し、近年、豪雨災害が全国各地で相次いでいる背景や、なぜ毎年のように犠牲者が出てしまうのかを解説してくれました。豪雨災害の恐ろしさを実体験していないことが、逃げ遅れにつながっていると言及する早坂さんは、参加者全員にVRゴーグルを配布。360度映像の中で、河川の水位が一気に上昇する様子や、膨大な水で瞬く間に屋内が浸水する光景などが映し出され、洪水・土砂崩れを疑似体験しました。体験後、早坂さんは「豪雨災害は事前に予測し、備えることができる災害です」と語りかけ、自分が住む地域にどのような災害が起こりうるのか把握するため、「ハザードマップ」の見方をレクチャー。浸水想定区域を確認し避難時の持ち物や避難開始のタイミング、避難先など、豪雨災害から命を守るために、家族一人一人が取るべき行動をあらかじめ決めておく避難計画「マイ・タイムライン」にも大いに関心が集まりました。手元の資料を見ながら、いつ・誰が・何をするのか時系列で整理し、避難行動を具体的にシミュレーション。事前に綿密な計画を立てておくことで、いざという時も落ち着いて行動できるのだと学ぶことができました。早坂さんは、「災害は〝いつか〟ではなく、〝いつどこでも起こりうるもの〟。その意識を持つことが大切です」と結び、深くうなずく参加者の表情であふれました。
- 第2回 地震災害編
- 1月22日に開催した「地震災害編」も、VRゴーグルによる映像体験からスタート。低層の集合住宅と思われる一室で料理をしている女性の目線で映像が始まり、本当に大きな地震が起こったかのようなリアルな演出で、思わず手を握りしめる参加者もいたほど緊迫感のある約4分の体験となりました。その後、スクリーンに仙台市青葉区の地震ハザードマップを投影。「令和5年に宮城県が公表した資料によると、宮城県沖地震の連動型が発生した場合、県内では最大震度6強、最大8mの津波が発生する地域があると想定されています。仙台市ではこのほかにも、想定される地震別の震度や被害想定をマップで掲載していますので、ぜひお住まいの環境を確かめてみてください」と、自宅がある地区の地震リスクの確認を呼びかけました。
後半は、地震発生時にとるべき正しい行動について説明。地震の揺れを感じている間、自分の体を守ることを第一に考えて行動し、自身の安全を確保できたら、隣家や近所に住む高齢者などに、声がけや安否確認をすることを勧めました。さらに、ご近所同士で集合する「いっとき避難場所」についても言及。地域の被害状況や住民の安否を確認するために集合する場所であり、災害時に情報を集めながら向かうことで、地域の防災力を必要な場所に集中させることができるメリットについて教えてくれました。指定避難所の仕組みや運営主体ごとの役割、在宅避難、非常食のローリングストックの有効性や災害に備えた家づくりについても紹介。早坂さんは、「非常時に適切な行動をするためには、日頃からの反復練習が大事です」と会場に呼びかけました。

予想以上のスピードで浸水する様子をVRで体験

豊富な知識で会場に語りかける
仙台市防災・減災アドバイザーの
早坂政人さん

VRゴーグルを装着してバーチャル映像で震災を体験

仙台市地震ハザードマップ(仙台市全域版)


仙台市防災・
減災アドバイザー
早坂 政人さん- 仙台市では町内会をはじめとする地域団体が自助・共助に取り組み、小中学校でも地域の災害リスクに応じた防災教育が進められています。しかし、地域とのつながりが薄いご家庭や働く世代には、防災の必要性が十分に届いていないのが実情です。自然災害のハザードマップは広く公開されていますが、「自分には関係ない」と受け止められることも少なくありません。さらに、大雨災害に備える「マイ・タイムライン」や、避難所ではなく、自宅で避難生活を送る「在宅避難」など、東日本大震災当時にはなかった新しい考え方も、まだ浸透の途中です。
だからこそ今、地域・企業・行政が連携する本プロジェクトを通じ、誰もが“自分ごと”として備えを始められる社会づくりが求められています。
- 賛同企業・一般参加プログラム
- 次世代継承の現場に触れ、津波被災物に学ぶツアー
揺るがぬ史実から命を守るための知恵を
復興の歩みを続ける中で、次なる大災害から一人でも多くの命を守るため若い世代へ教訓を伝えようと、それぞれ違った視点で震災を語る3者を訪ねたこのツアーは、昨年11月8日に実施。44人の参加者とともに、震災の記憶を持たない聖ドミニコ学院中学校(仙台市青葉区)の5人も同行して、大きな学びを得ることができました。
最初に訪ねたのは、4階まで達した津波で甚大な被害を受けた気仙沼向洋高校旧校舎を震災遺構として保存し、当時そのままの被災状況を一般公開している「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」。ここでは、語り部として活動している階上中学校や気仙沼向洋高校などの中高生12人との出会いが待っていました。また、住民の3割にあたる犠牲者93人の名を刻んだ「東日本大震災 杉ノ下遺族会慰霊碑」の前で、当事者として体験を語る小野寺敬子さんとも対面。当時のエピソードを穏やかな口調で語りながらも、悲劇を繰り返したくないというひたむきで強い意志を感じられました。「リアス・アーク美術館」では、震災後、2年間にわたって気仙沼市・南三陸町の被害記録調査を行い、2013年4月から公開している常設展示「東日本大震災の記録と津波の災害史」を企画した館長の山内宏泰さんが一行を出迎えてくれました。山内さんは、「これまで行われてきた復興計画の数々は、多くの課題を抱えて進んできました。だからこそ過去の資料や文献に学び、未来に向けてどんな準備をすべきかを考えてください」と参加者に力強く訴えかけました。

気仙沼向洋高校旧校舎の屋上で教師や生徒、
地域住民の避難状況について語る中学生

デジタル絵本「ケヤキの想い」の
原作も手がけた小野寺敬子さん

リアス・アーク美術館の常設展示
「東日本大震災の記録と津波の災害史」を見学


リアス・アーク美術館
館長
山内 宏泰さん- 本年4月、リアス・アーク美術館は気仙沼市立の美術館として新たな一歩を踏み出しました。気仙沼・本吉地域広域圏の美術館として歩んだ約32年間で最も大きな出来事は、やはり東日本大震災でした。
当館では学芸員らが、被災した気仙沼市と南三陸町の記録調査活動を行い、2013年4月より「東日本大震災の記録と津波の災害史常設展示」を新設、現在に至ります。
あの日から15年が経過し、中学生以下は震災後生まれとなりました。未災の世代に、いかに災害伝承を行っていくか、大きな課題が残されています。さまざまな表現を用いて芯に届く新たな伝承の型を生み出していかねばなりません。気仙沼に根差した美術館である当館の不変の使命です。

消防団員をモデルに復興祈念公園に
新たに設置された伝承彫刻
「悲憤を越えゆく者」
気仙沼視察を通じて

聖ドミニコ学院中学校
教頭
佐藤 英明さん- 震災を知らない世代の生徒に向き合うことで、私たちが「今できること」を考える機会をいただいたと思っています。「今ある生活ができているのは当たり前でなく、感謝を忘れてはいけない」と述べた生徒の感想は、震災の記憶を忘れさせない事はもとより、次世代へと継承していくべき大切な教訓ではないかと感じさせました。今回の参加から、生徒たちだけでなくわれわれ教員も次世代へと語り継ぐ重要な担い手であることを認識させられました。
- 賛同企業・一般参加プログラム
- 3.11メモリアルネットワークと行く
被災地視察ツアー
コミュニティーの輪をつなげた復興まちづくり
- 被災地視察ツアー① 岩沼市
- 被災3県で、教訓の伝承に関わる個人・団体・拠点施設をつなげる(公社)3・11メモリアルネットワークのスタッフが同行する被災地視察ツアーを2回実施。その第1回を昨年12月3日に実施し、岩沼市を巡りました。集団移転のトップランナーとして知られる玉浦西地区では、玉浦西まちづくり住民協議会の歴代会長3人から、理想のまちづくりについて詳しく話を聞きました。千年希望の丘 相野釜公園も訪問。いわぬま震災語り部の会の会長、渡邉良子さんのガイドで園内を見学しました。敷地全域が冠水し、旅客、周辺住民、空港従業員ら約1700人が避難した仙台空港では、仙台国際空港株式会社の相澤侑也さんと小笠原光徳さんが空港ターミナルビル1階に常設展示されている震災説明パネルの前で解説。その後、普段は見ることができない仙台空港の施設内外をじっくり見学することができました。

まごころ公園のしだれ桜について語る
玉浦西まちづくり住民協議会の菊地正広会長

仙台国際空港の震災説明パネル
- 被災地視察ツアー② 東松島市
- 2月4日に実施した東松島市でのツアー。震災遺構の旧JR野蒜駅ホームを見学後、高台移転地の野蒜ケ丘にある市民センターで地元住民によるミュージカル劇団「100通りのありがとう」の活動を共有しました。被災住民100人以上が出演した2回の公演動画を鑑賞。団長を務める菅原節郎さんの講話にも耳を傾けました。旧矢本町のあおい西集会所では、自治会の統括組織「あおい地区会」会長の小野竹一さんが、住民主体で進めた復興まちづくりの歩みについて解説。その後、小野さんと一緒に活動する東北大学2年生の後藤優太さんも同行し、語り部ガイドを行なってくれました。
最後に、大曲浜と隣接する石巻市西浜町の造船会社「ヤマニシ」の入り口にある津波避難タワーを視察。石巻市危機管理部の担当者と当時ヤマニシで勤務していた顧問の阿部晃二さんから話を伺いました。

「100通りのありがとう」
(2019年3月、旧野蒜駅)
の一場面

(左)語り部活動を引き継ぐ東北大生の後藤優太さん
(右)あおい地区のまちづくりを振り返る
小野竹一さん


3.11メモリアルネットワーク
代表理事
武田 真一さん- 岩沼市と東松島市の視察ツアーは震災15年の歩みを確かめる企画でした。集団移転地の玉浦西地区とあおい地区では被災者の努力で新しいコミュニティーが根付く様子、千年希望の丘と野蒜・大曲では犠牲の無念を胸に教訓を伝え継ぐ活動に取り組む住民の姿に触れました。
参加者の多くが「復興と災害犠牲が初めてわがことになった」「参加しなければ分からないままだった」と振り返っていたのが印象的でした。震災が遠い過去の出来事ではなく、今に連なる大切な記憶として意識されたことが何よりの成果です。震災の伝え合いはこれからこそが本番です。被災地に出向き、当事者の姿と声に触れるツアーに参加し、ぜひ伝承の輪に加わってください。
公益社団法人3.11メモリアルネットワークはこちらから

昨年、いわぬま震災語り部の会の会員となった鈴木大遥(たいよう)さん、心彩(ここあ)さんの兄妹が、先輩が見守るもとで 来場者をガイド- いわぬま震災語り部の会会長
渡邉 良子さん - 私自身は、2016年の千年希望の丘交流センター開設時より語り部ボランティアを始めました。その7年後、同志8人の市民活動団体として始動した「いわぬま震災語り部の会」。今回のツアーのようにメディアで紹介されることで関心をもつ方が着実に増えています。会員の高齢化で先細りが懸念されていた昨年8月、新会員として迎えた10代の兄妹に続き、年明けに40代の3人が加わり10人となりました。
「そなえよ、つねに」「自分の命は自分で守る」。この教訓を若い世代へ託して、希望のある震災伝承活動を進めていきます。

劇団100通りの
ありがとう
団長
菅原 節郎さん- 「つながる」「つたえる」「つづける」。これは、劇団を結成した際、団員の皆さんと誓い合ったモットーです。時間や地域を超えて、震災の悲惨さや教訓を伝え続けていく手段はいろいろな方法があります。我々がヒョンなことから巡り合った方法がエンタメ、とりわけミュージカルだったのは、今思うと必然だったかもしれません。被災した同志、あるいは支援者が一つの作品に向かって練習を重ねるうちに心の痛みが軽くなり、共感・共有するものが多くなってきた感じがしますし、見てくださった方々にも同様の動きが見えました。これからも笑いあり涙ありのミュージカルで「忘れない」を追求していきたいと思います。
