俳句(7/19掲載)

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【石母田星人 選】

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車椅子草笛を吹く老ひとり   石巻市南中里/中山文

【評】曲げた葉を唇にくわえ、息で振動させて音を出す草笛。実際に吹くと分かるがこれが結構難しい。苦い葉の味が口の中に広がるばかりで、美しい音などとても出せない。上手な人は小さな頃から上手。この句の車椅子の人もそうなのだろう。その達者な音色は哀調を帯び辺りを魅了する。「ひとり」の空間の中で子どもの頃の思い出に浸っているのかもしれない。

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大西日備前の窯に煉(ね)り込まれ   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】備前焼の特徴のひとつは地肌の茶褐色。うわぐすりを使わずに高温で焼き締めることからこの色になる。他の焼き物に比べると素朴で落ち着きがある。この句、備前焼を手にして登り窯に当たる西日を思い描いている。土がもつ大地のぬくもりを感じながら。

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さくらんぼ逢ひたき人の頬のいろ   石巻市蛇田/高橋牛歩

【評】子どもの頃の友、青年時代のあこがれの人、もしかすると孫のことかも。中七「逢ひたき人」から想像が膨らんで、物語性が濃く薫ってくる作品。

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海鞘喰へば海の男に里帰り   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】海鞘を食べて漁師の顔に戻った作者。本来、里帰りは女性が結婚後実家に一時的に帰ることだが、内面の変化を表すにはうってつけの字面。面白い。

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触るるものみな影となる盛夏かな   東松島市矢本/紺野透光

海の日やあの日あの時逃げただけ   石巻市吉野町/伊藤春夫

夏かもめ沖をはるかに震源地   石巻市蛇田/石の森市朗

それぞれに津波の話蝉時雨   多賀城市八幡/佐藤久嘉

雨上がり郷の匂や初蛍   東松島市矢本/雫石昭一

はつなつの竹百幹のそよぎかな   石巻市相野谷/山崎正子

青梅の早も箒の波の上   石巻市小船越/三浦ときわ

早苗饗や田の神さまに黄粉餅   石巻市小船越/芳賀正利

蜜豆やくるくる回す万華鏡   東松島市新東名/板垣美樹

父の日と夏至の重なる朝かな   石巻市北上町/佐藤嘉信

旅鞄ひょいと背負いて雲の峰   石巻市中里/川下光子

氏神の小振りあじさい紺深む   石巻市広渕/鹿野勝幸

五月晴ヨガのペディキュア海の色   仙台市青葉区/狩野好子

大蟻の生死わからぬものの前   石巻市開北/星ゆき

薫風や走り根太き登山道   石巻市中里/鈴木登喜子

万緑や老いに負けじと歩みだす   東松島市あおい/大江和子