コラム:前を向いて話そうー「プロンプター」

 記者会見などで顔を上げずに話しがちだった菅首相。最近変化が見られます。目をかっと開き、前を見て聴衆に話しかける、時には笑みを浮かべる余裕も見せながら...。この変わりように評判も上々のようです。

 ご本人の努力もあるのでしょうが、それを補助する「文明の利器」が大きな役割を果たしています。「プロンプター」(prompter)です。パソコンからの原稿映像を、離れた場所にある液晶モニターなどに映し出す装置...演説などでは「ハーフミラー」と呼ばれるものが演台の前に設置されます。

 1960年代中頃より米国の歴代大統領が使い始めたのが始まりです。これにより、内容の正確さに加え、顔を上げて説得力のあるスピーチをすることが可能となりました。

 この「プロンプター」は「迅速な、機敏な」「刺激する、うながす」を意味する英語 prompt に由来。「講演者や俳優に文句やセリフを教える装置」(ランダムハウス英和大辞典第2版、小学館)で、そのまま日本語として用いられています。

 日本の能や歌舞伎では舞台後方や役者の背後に控え、必要に応じて舞台進行の諸事を補佐する「後見(こうけん)」という役がありますが、役者のセリフまでは補助しません。

 筆者は大学時代「英語劇研究会」に所属し、シェークスピアをはじめ英米の劇の原語での上演に関わりましたが、客席からは見えない wing(s) と呼ばれる舞台の袖に待機している prompter の先輩にはだいぶ助けられました。

 「プロンプター」と聞くと、青春時代のあれこれの記憶が蘇ってくるのです。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)