俳句(3/3掲載)

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【石母田星人 選】


暁光を濁す風あり実朝忌   石巻市中里/佐藤いさを

【評】夜明けにさす日の光にふとかげりを感じた。それできょうが実朝忌だったと意識した。歌人として名高い源実朝は鎌倉で甥の公暁に殺された。「暁光を濁す風」にはその史実が巧みに詠み込まれている。


頬杖の短き夢や布海苔摘み   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】味噌汁に入れると磯の香りが広がる布海苔。シャキシャキした食感も魅力だ。作業の合間のうたた寝だろう。おいしさの源にはこのつらい労働がある。


一羽二羽翔ち組直す鴨の陣   石巻市相野谷/山崎正子

【評】今季の北帰行は早かった。この句はまだ滞在中。ばらばらなのだが寄り添う鴨の姿がよく見える。


着ぶくれのポケットのなか陽のにほひ   石巻市丸井戸/水上孝子

寒の水硯の中に海と丘   松島町磯崎/佐々木清司

初窯や榊に御神酒棚の上   石巻市新館/高橋豊

初午や耕す田畑砂埃   東松島市矢本/雫石昭一

枯尾花地蔵の御手に御賽銭   石巻市元倉/小山英智

曲がりゆく深きトレール山眠る   石巻市流留/大槻洋子

安達太良山の空の真青や春きざす   石巻市桃生町/西條弘子

冬波にうちあげられし枯木の根   石巻市小船越/芳賀正利

つちふるやパネルタッチの指の圧   石巻市中里/川下光子

春めきて飛行訓練ハートかな   石巻市広渕/鹿野勝幸

雪兎ほどの雪なら降りそうね   石巻市吉野町/伊藤春夫

立ちあがりまた転ぶ嬰や蕗の薹   石巻市蛇田/石の森市朗

キリンとかめ選んだ孫は春炬燵   石巻市桃生町/佐藤俊幸

しもやけの疼けば還る幼き日   石巻市向陽町/成田恵津美

冬晴れや散髪終へて頭の軽し   石巻市門脇/佐々木一夫

読初や砂の器に躓きぬ   石巻市駅前北通り/小野正雄

こめかみの動く父なり煮凝り   多賀城市八幡/佐藤久嘉

温暖に冬の風物祭り消え   石巻市水押/阿部磨

友来たる鰤の照り焼き携へて   石巻市流留/和泉すみ子

啓蟄や夫にすべてを支へられ   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

群青の鉢色清しシクラメン   石巻市湊東/三條順子

遊歩道木漏れ日揺らぎ北おろし   石巻市湊/斎田流雲