短歌(4/27掲載)

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【斉藤 梢 選】


珊瑚樹の萌芽のちから受け取ればひたひた胸に明日への息吹   東松島市矢本/田舎里美

【評】夏の7月から8月頃に赤い実をつける「珊瑚樹」。その赤い実を「サンゴ」に見立ててこの名が付けられた。調べてみると、萌芽力が強いとある。作者は「珊瑚樹」に勢いのある生命力を感じたのだろう。ともすれば、元気をもらうと言ってしまいがちだが「ちから」を「受け取れば」と丁寧に表現しているところが良い。春の歓びを詠む一首でもある。「珊瑚樹の萌芽のちから受け取れば胸に明日への息吹ひたひた」とする方法も。この国に巡る四季は賜物であるから、この季節でなければ詠めない歌を大切にしたい。


儘ならぬ齢に畑は狭まれど絹さやの緑春の土に映ゆ   石巻市羽黒町/松村千枝子

【評】長い冬が過ぎて、畑にも春がやって来た。狭まってしまったけれども「絹さやの緑」が美しい。その緑を愛しむように見ている作者に、これからまた土との会話が始まる。「春の土に映ゆ」は、自然の色の力強さをも表現していて、魅力的。「狭まれど」から「映ゆ」への展開が、春を生きゆく意志が作者の心にあることを伝える。


朝いまだ開かぬ桜促して風の心となりて触れたし   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】桜が咲くのを待つ日々の心情を詠む。「促して」という言葉選びが優れている。風にも桜の花との出合いがある。まだ咲かない清楚な桜に触れるのは「風」。人間が踏みこんではならない自然への敬意がある。


幾日も前から此の田にいたような白鷺に念ず「時を止めて」と   石巻市桃生町/けい哉

【評】田の中に立つ白鷺の存在感ある白。「幾日も前から」と、感じる作者が発した言葉の「時を止めて」。この歌の解釈はさまざまだろうが、鑑賞したい一首。


訪いみれば年輪あらわな柿と栗なつかし生家は記憶の中に   石巻市須江/須藤壽子

テレビから昔の歌が賑やかに昭和百年歌は元気だ   東松島市矢本/畑中勝治

青畳見れば大の字になりたくも体歪みて大の字乱る   石巻市門脇/佐々木一夫

湯上りの湯気に立つ新一年生のほっそり足裏(あうら)に未来がぎしり   石巻市開北/ゆき

摘み草のつくし、のかんぞうほろ苦し夕餉に春を酢味噌で和える   東松島市矢本/川崎淑子

たまほこの舗道行くときコンクリートの粒子きらきら夕日を返す   石巻市駅前北通り/庄司邦生

ラジオから流れる曲はNSP 思い出巡る夕暮れの時   女川町浦宿浜/阿部光栄

AIにも輸血しますか人並みに痛み教えて酸いも甘いも   石巻市桃生町/佐藤俊幸

米寿越え卒寿になりて今もなお畑仕事に愉しみの湧く   東松島市矢本/奥田和衛

雷雨すぎて水嵩増せる流れありなびく水草の目に沁むみどり   女川町旭が丘/阿部重夫

呼ばずとも用件言えば済むくらし最後のときになんと呼ぼうか   石巻市流留/大槻洋子

ササニシキ御馳走してきた雀らよ米高騰で粟でかんべん   東松島市赤井/佐々木スヅ子

ぽっこりの体型の猫日溜りにゆったり気分で春待ちわびる   石巻市湊東/三條順子

春が来た春が来たよとふきのとう暖かい春の味ですバッケ汁   石巻市飯野/川崎千代子