短歌(6/22掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【斉藤 梢 選】


気兼ねなく朝に新聞切りぬいてこれも自由か静かな時間   石巻市流留/大槻洋子

【評】生きている時間の中で自由だと感じることは、そんなに多くはないと思う。作者は新聞の朝刊を読みながら、または読んだ後、心に残った記事や暮らしに関わる情報などを切り抜きつつ「これも自由か」と気づく。暮らしの中で自由な時間をもつことが出来ることをありがたく感じているのだろう。そして、この一首は心の自由をも詠む。束縛されることなく、自由であることはいつの世でもなかなか難しい。だからこそ自由を求めて人は心をひらく。自分にとっての自由とは何かを考えてみたい。


爺ちゃんと呼ばれて久しく歳を積み今は元気に明日を呼ぶわれ   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】作者は歳を積み重ねて現在九十四歳。「歳を積み」という表現は、一日一日を大切にして生きて来たことを伝える。「爺ちゃん」と呼ばれてからずいぶん経ったけれども、今も元気で前向きに生きているというご家族へのメッセージのような一首。「明日を呼ぶ」には作者ならではの気概がある。老いを嘆くことなく詠んだこの歌が、作者の心の支柱になるのではと思う。


新しき芽に陽の光当てるため古き黄色の竹の葉去れり   東松島市赤井/志田正次

【評】「新しい芽」と「黄色の竹の葉」を見つめつつ、感受したことを表現している。光を当てるために去るという捉え方が真摯で深い。古いものから新しいものへと受け継がれてゆくことを、竹の葉の命に見る作者。


ナンプレに一日(ひとひ)費やす昨今よ老が辿れる最後の趣味か   石巻市南中里/中山くに子

【評】「ナンプレ」は9×9の正方形の枠内に1~9までの数字を入れるペンシルパズル。作者には思考力を鍛えて、一日を費やして夢中になれる趣味がある。


かたくなな親父が逝きて五十余年喜寿を越ゆれば父によく似る   石巻市あゆみ野/日野信吾

下ろされて種は昔から居たように土に馴染んで空へ空へと   石巻市桃生町/佐藤俊幸

渾身の雲雀の囀り絶え間なし小(ち)さきエネルギー五月を詠ふ   東松島市矢本/田舎里美

板塀のこわれをくぐり八つ手葉は風に咲きだし大空かかぐ   石巻市開北/ゆき

庭仕事一息ついて眺めれば蝶を招くや紅い石楠花   東松島市赤井/茄子川保弘

雨止んで静かな春の風の中からたちの花そっと生垣に   東松島市矢本/畑中勝治

淡雪のようなるつつじに風と雨 咲くを待ちいる我にも術なし   東松島市矢本/川崎淑子

夫と行くロングドライブあと幾度思案はすれど提案するわれ   東松島市矢本/菅原京子

雨の日はゆううつな時もあるけれど雨音聞いて心リセット   石巻市水押/佐藤洋子

茅葺きの囲炉裏に下がる自在鉤昭和の暮らし脳裏をよぎる   石巻市桃生町/西條和江

少しずつ短かくなりし散歩道何気なく桐の花の紫   石巻市羽黒町/松村千枝子

長時間座ってパソコン外は雨 昼は立ち飯片足立ちで   東松島市赤井/佐々木スヅ子

新緑の山に谺すうぐひすの鳴きごゑ愛し谷渡りなり   石巻市門脇/佐々木一夫

幾度ぞ風雪耐えて来たりしかめげずに青めく飛騨の這松   石巻市わかば/千葉広弥