【石母田 星人 選】
船縁の擦れる音や五月闇 石巻市新館/高橋豊
【評】いつもは気にしない船縁の擦れる音。今夜ははっきりと響いてくる。梅雨時のこの暗さのせいだ。切字「や」の後の一呼吸が、五月闇の空間を広げる。
手のひらに照り輝くやさくらんぼ 石巻市水押/阿部磨
【評】初物の高価なさくらんぼ。手のひらにのせてしばし眺める。つやつやと赤い光は芸術品のようだ。
草むしり白髪頭を日がむしり 石巻市門脇/佐々木一夫
【評】草むしりの句がたくさん届いている。済んだ後の爽快な気分を詠んだ句が多いが、ここは作業中の描写。帽子の上から襲ってくる日差しを、頭で感じている。過酷さも思うが独特のリズム感にひかれる。
風神のおいでくださる夏座敷 石巻市丸井戸/水上孝子
鰹来て三陸沖は盛り上がり 石巻市渡波/阿部太子
青やませ波打ち合いてより白し 石巻市中里/佐藤いさを
無念なり跡継ぎなくて草いきれ 石巻市桃生町/佐藤俊幸
はまなすの花びら一つ文に入れ 石巻市流留/和泉すみ子
白無垢や嫁入り舟のあやめかな 東松島市赤井/志田正次
潮風に胸襟ひらき貝風鈴 石巻市蛇田/石の森市朗
露天風呂湯音奏でる夏至夜風 石巻市湊/斎田流雲
ひと雨の過ぎたる城の夏木立 石巻市桃生町/西條弘子
松島の松の芯なり総立ちて 石巻市広渕/鹿野勝幸
海霧深し板碑に残る歌枕 松島町磯崎/佐々木清司
風光る駅前広場の鼓笛隊 石巻市小船越/芳賀正利
実桜の小さきままに百日目 石巻市流留/大槻洋子
五月雨のなくて天地ふぬけなり 石巻市開北/ゆき
梅雨空をアナベル孕む大らかさ 東松島市矢本/田舎里美
西口のずんだシェイク薄暑かな 石巻市中里/川下光子
渋柿にまた豆柿に柿の花 多賀城市八幡/佐藤久嘉
海鞘祭詰め放題の長き列 石巻市向陽町/成田恵津美
海鞘むいて億年の海の味を食う 石巻市駅前北通り/津田調作
庭先に夏菊咲きて手を合わす 東松島市矢本/奥田和衛
雨に濡れ額紫陽花の凛として 石巻市桃生町/西條和江
猛暑日や待合室の赤子かな 東松島市矢本/菅原京子