短歌(7/20掲載)

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【斉藤 梢 選】


生き居るに歳が重いと背(せな)が言うそれでも明日の夢を綴りて  石巻市駅前北通り/津田調作

【評】私たちは背にさまざまな荷を負って、生きているのだと思う。その荷は、人それぞれに違う。精神的な苦痛や悲しみや喪失感、肉体的な衰えによる疲労が歳を重ねてゆくと背に重くのしかかる。作者は「歳が重い」と詠む。「歳」そのものが「重い」のだ。上の句は94歳の作者の肉声のようだ。しかし、津田さんは老いを嘆き続けるのではなく「それでも」と、姿勢を正す。「老い」の一語を使わずに、自分の生き方を見定めて、明日が来ることを信じている。「夢」を綴ることができるスタミナが心にはある。


うすみどりのこんもり紫陽花今だけは静謐はらむ梅雨空のもと  石巻市開北/ゆき

【評】開花から日のたつほどに色を変えゆく紫陽花。この一首は、まだ色づかない「うすみどり」の紫陽花を見た時の印象を詠む。「今だけは静謐はらむ」の感覚的な表現が魅力。「はらむ」という捉え方は「こんもり」としている毬の形だからこそ。この「静謐」を、やがて紫陽花自身が破って色を極めてゆくのだろう。花の雰囲気と特徴を感じ取って表現した作品。


不耕起の畑掘り起こせば蟻の群れ右に左にただただ動く  石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】畑には、驚くほどの蟻の群れ。その様子を「右に左に」と描写し「ただただ」という言葉で蟻の生命力を表している。掘り起こした作者にしか表現できない蟻の俊敏な動き。この農の歌には土の匂いがする。


綿雲が膨らみ浮かぶ碧い空バラのアーチは夏の入り口  東松島市赤井/茄子川保弘

【評】一首の中にある色を想像すると、楽しい。「綿雲」の白、空の碧、バラの彩りが初夏を思わせて「夏の入り口」とした結句が的確。美しい季節を詠む。


生涯を支えくれいる趣味の数遂に十種か今はナンプレ  石巻市南中里/中山くに子

極楽寺、由比ケ浜など脳トレの江ノ電の旅こころに風を  石巻市流留/大槻洋子

ユズリハの生垣の中に小鳥の巣剪定そこはしないでそっと  東松島市矢本/畑中勝治

小さき畑の玉ねぎ吊し軒眺む農家気分で少し誇らし  石巻市羽黒町/松村千枝子

握るときこころも入れているのかな手作りおにぎり食み食み旨し  石巻市あゆみ野/日野信吾

人形にわが名記して息をかけ茅の輪くぐりて無病祈るや  東松島市赤井/志田正次

ナンプレの仲間がいたのね短歌欄 何故かうれしく難問に挑む  東松島市赤井/佐々木スヅ子

診察時カルテの厚さ3センチ過去の病歴これだと叫ぶ  石巻市不動町/新沼勝夫

蚊帳(かや)をつり螢放して寝た頃が無性に懐かし牡鹿の山々  仙台市青葉区/岩渕節子

終戦後はや八十年間近なりあの日知りてか咲く百日紅  石巻市水押/小山信吾

雲はなく夕日輝く西の空ファンタスティックに日は沈み行く  東松島市矢本/奥田和衛

古里のザァザァザブーンの波の音ただなつかしく今夢で聞く  石巻市流留/和泉すみ子

アスパラの高きが苦の種今日の日は憂いから始まる空梅雨の朝  石巻市渡波/阿部太子

角を立て体を伸ばしのんびりと慌てず移動のでんでん虫や  石巻市桃生町/西條和江