短歌(8/31掲載)

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【斉藤 梢 選】


ひび割れたアスファルトから草伸びて生きる強さにエールを送る   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】猛暑というよりは酷暑の日々。畑の作物の育ち方にも影響するこの暑さに、宮沢賢治であれば「ナミダヲナガシ」ているだろうか。作者は、アスファルトのひび割れたところから伸びている草に心を寄せて「生きる強さ」を感じている。人は、木や草や花を見て、その姿に励まされることがある。自分自身が元気になることを詠む歌や、その植物から受ける印象のみを表現する歌が多いけれど、作者は草に「エールを送る」のだ。この気持ちは、農を営み土を慈しむ作者ならでは。「生きる強さにエール送る夏」とする方法も。


天空に蓋あるような蒸し暑さ盆地にくらす子の日々を思う   石巻市流留/大槻洋子

【評】盆地で暮らす子のことを案じている作者。この日の蒸し暑さを「天空に蓋あるような」という感覚的な言葉で表している。きっと、子はもっと暑い日々を過ごしているのだろうと思うのは、母心。「天空の蓋」は、気候変動をも思わせて、人の力ではどうにもできないことをも示しているよう。「子のこと思う」ではない「子の日々を思う」に、思いの深さを知る。


夕空がまだ明るいのに三日月が体細めて中空にそっと   東松島市矢本/畑中勝治

【評】この一首を読んで、感じることの大切さを思う。「体細めて」「そっと」在る三日月。夜の月ではなく夕の月を見ての感受が優れている。雑念のない心の目で見ているからこそ生まれた表現を、味わいたい。


立秋を合図に始まる大合唱 季節を守る鈴虫の声   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】立秋を過ぎても、まだまだ暑い日が続く。けれども虫たちは「季節を守る」。鈴虫の声を聞き、心には涼やかな風が。季節感をずっと育んできた作者。


干涸びて葉を巻き縮む岩ヒバや日照りの夏も生きるバネとす   石巻市門脇/佐々木一夫

街の顔港の姿変われども川面彩る花火変わらず   東松島市赤井/茄子川保弘

待ち侘びし蟬の初鳴き八月五日逝きし妹の米寿の日なり   石巻市中央/千葉とみ子

生き居るに何を想いて飯を食う歳の重みにたえつつ今日も   石巻市駅前北通り/津田調作

ゆううつな些細なことにはおさらばし今宵のパジャマは娘(こ)と色違い   石巻市湊東/三條順子

両親が若き日住みにし小石川テレビに映れば温もり覚ゆ   石巻市蛇田/菅野勇

トキヤ草網代編みしたパナマ帽インカの歴史今も息づく   東松島市赤井/志田正次

鬼百合に黒蝶舞って優雅なり猛暑に耐えるひとときくれる   石巻市不動町/新沼勝夫

暑ければ歩みをゆっくり朝夕にかすかな秋の匂い探して   東松島市矢本/川崎淑子

早朝の窓にミンミン聞こえ来る今日の晴天告げるがごとく   石巻市南中里/中山くに子

山百合の咲き乱れたる奥松島船で巡りし友を偲べり   石巻市渡波町/小林照子

大空に描くハートの巧みなり気分スッキリブルーインパルス   東松島市矢本/奥田和衛

八十一の仲間集いてアダナ呼び向日葵のごとく丸く達者で   石巻市水押/小山信吾

日曜日クロスワードと数独を楽しみながら悩トレタイム   石巻市大街道南/後藤美津子