短歌(9/28掲載)

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【斉藤 梢 選】


雲われて薄明光線降る日には天使と昇るネロ思い出す   女川町浦宿浜/阿部光栄

【評】「薄明光線」は、雲の切れ間からもれる光が、柱のように地上へと降り注ぐ自然現象のことで、その美しさに感動して詠む人も多い。この一首は「薄明光線」を描写するだけではなく、下の句の思いに至っているところがよく、深く鑑賞したい。「フランダースの犬」の最終章は、大聖堂の天井から光と共に、天使がネロと愛犬パトラッシュのもとに降りてくる。作者はこの悲しい昇天の物語を思い出して、祈っているのであろう。「天使の梯子」とも呼ばれるこの現象を、宮沢賢治は「光のパイプオルガン」と表現している。


早朝の一人散歩に靴音は「ガンバガンバ」とリズムをくれる   石巻市流留/大槻洋子

【評】早朝に散歩している作者が聞くのは、自分の靴音。静かな道を一人で歩く時「ガンバガンバ」という靴音の励ましが作者には聞こえる。歌を詠むときに大切なのは、感じることと気づくこと。結句の「リズムをくれる」という捉え方も優れている。歩くことができ、散歩することができることへの感謝の気持ちも伝わってくる作品。歩くことで心も浄化されるのでは。


踏みたればぱりんと路(みち)に崩るる葉夏に灼かれていさぎよく散る   東松島市矢本/田舎里美

【評】葉が崩れることを「ぱりん」という音で表している。猛暑、酷暑の今年は、植物もまた苦しんだに違いない。「夏に灼かれて」は現状を把握しての言葉。「散る」は、夏の暑さと戦って果てることを言う。


朝起きて窓を開ければ沢山の機嫌良く咲く朝顔は癒し   石巻市西山町/藤田笑子

【評】朝顔との朝の出合いを詠む。暑い日々が続いていても沢山咲いていることが嬉しく、その姿に癒されている朝。「機嫌良く」と感受しているところが秀。


美しき流れを見せるかな文字に水澄む秋のせまり来る見ゆ   東松島市矢本/川崎淑子

涼風や木かげに集う小雀もやはり酷暑を語り合う日々   石巻市湊東/三條順子

吸ひ込まれてしまひさうだつた遠き日のあの夏の日のふるさとの空   石巻市あゆみ野/日野信吾

「この歳になってみないとわからない」母の言葉が心刺す日々   石巻市蛇田/櫻井節子

草の上したたる汗のありがとう土に染みこむ農夫の想い   石巻市桃生町/佐藤俊幸

あぢさゐの萎えしとなりに橙色(だいだい)の鬼百合四、五輪無風のゆふべ   石巻市開北/ゆき

気にかかる異常気象に物価高何よりわれの逝き方いかに   東松島市赤井/佐々木スヅ子

真夜中の揺れに驚き飛び起きぬ頭を過(よぎ)るあの日の悪夢   東松島市赤井/志田正次

もうそうか旅のつばめも帰るのか夏が暑くて忘れていたよ   東松島市矢本/畑中勝治

短歌(うた)習い此処まで続けて歳嵩む歳には負けずと短歌(うた)を積みゆく   石巻市駅前北通り/津田調作

征く夏の夕陽浴びつつ懸巣二羽塒に戻るか即かず離れず   東松島市大曲/瀬戸隆雄

漁船に乗り海の蒼さに憧れて懸けた人生海鳥の如し   石巻市水押/阿部磨

初夏の川光となりて若鮎の銀の鱗は澱(よどみ)に集う   女川町旭が丘/阿部重夫

昼下り鹿の鳴く声耳にする友を呼ぶのかオクターブ上げて   石巻市桃生町/千葉小夜子