短歌(10/12掲載)

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【斉藤 梢 選】


ふんわりと浮かびあっさり消えてゆく掴み取れない言葉もどかし   石巻市流留/大槻洋子

【評】感情や感覚を、言葉で言い表わすことは難しい。それでも、言葉にしたいと詠む人は願う。心に浮かんできたのに、あっさりと消えてしまって言葉にできなかったことの多さ。「掴み取れない言葉もどかし」という、表現者ならではの思いに共感する。「寂しさ」という一語を選んで詠んでも、この言葉だけでは充分に表現できないと惑い、書き記した一首を反古にすることもある。一瞬の心の動きを掴み取りたいという作歌への姿勢を、この一首に見る。


ほうき草ふはんと弱音を吐きたれば秋のかたちの風の撫でゆく   東松島市矢本/田舎里美

【評】「ほうき草」と「風」との小さな物語。作者にだけ聞こえた弱音の「ふはん」は、暑さに耐えて生きいる命から発せられた声なのかもしれない。「ふはん」という表現により「ほうき草」のある空間の雰囲気が読者にも伝わってくる。描写するだけではなく、植物の姿を見て感受したことが無理なく表現されていて「秋のかたちの風」という捉え方が秀。


様々な国のあいさつ覚えては使いこなせる目標もちたし   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

【評】一途な希求としての「目標もちたし」。挨拶をすることで、人は人と手を繋ぐ。「様々な国」へと心をひらくことができる未来を見つめている作者。詠むことは、自問の後の答えを確認することでもある。


生きて行け生きてゆけよと言ふ如く緋色に燃ゆるけふの夕焼け   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】生きて行くには、このような励ましが必要な時がある。「緋色に燃ゆる」この日の空を見上げつつ、作者は「夕焼け」からの力ある言葉を受け取る。心に注がれる「緋色」のエネルギーが、作者の生を支える。


黄金田にひびける農の稲刈り機待っていてねと新米の声   石巻市南中里/中山くに子

秋彼岸うしろ姿もそっくりな三姉妹して山道のぼる   石巻市流留/和泉すみ子

今朝の庭昨夜の雨が光ってるようやく秋がここまで来たか   東松島市矢本/畑中勝治

命日のお墓参りで蟬見つけ暑いだろうと日陰に移す   石巻市西山町/藤田笑子

露草の花珍しく足止めて昔の里を思い出すなり   東松島市赤井/茄子川保弘

畦道に群がりて立つ曼殊沙華妖しき容姿われを惑わす   東松島市赤井/志田正次

生かされて生きて此処まで綴り来て短歌(うた)の世界の白寿を目指す   石巻市駅前北通り/津田調作

炎天下耐へて伸びゐる秋薔薇や花小さくも凜と咲きをり   石巻市門脇/佐々木一夫

力なく盛り上げし畝に大根の緑の二葉よくぞ出でくれし   石巻市双葉町/松村千枝子

大勢で生活をした浜や村八十余過ぎて動物の里に   石巻市水押/阿部磨

人々の暑さにあえぐ昨日今日もう始まっている「おせち」の宣伝   石巻市高木/鶴岡敏子

潮海(うみ)の香をふくろ一杯つめこんで持ち帰りたいあさがおの家へ   石巻市中里/のの花

朝起きてテレビクイズに辞書開く賢くなった気分でスタート   東松島市赤井/佐々木スヅ子

ここち良い風に遊ばれゆらゆらとじゃれあっている風せんかずら   石巻市大街道南/後藤美津子