短歌(12/7掲載)

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【斉藤 梢 選】


いにしえと同じ夕焼け海染める大高森から「あそこが松島」   東松島市矢本/門馬善道

【評】自然の美しさは、時には何ものにも代えがたいように思われる。「大高森」は「壮観」とも言われ、その山頂からは松島の美しい景を眺めることができる。結句は、作者の声。作者の心の声なのか、または誰かに向かって指差して言っている言葉なのかはわからないけれど、夕焼けが海をも染めている光景を見て、感動していることが伝わる。「いにしえと同じ夕焼け」という捉え方が優れている。今だけではなく昔に思いを馳せていて、自然への敬意が表現されている。この日の夕焼けの色は一期一会。作者の瞳も夕焼けの色。


運命かなぜに病気の進行をとめられないのかくやしいかぎり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

【評】作者は、苦しさと辛さを表現している。「くやしいかぎり」は、一度はぐっと飲みこんだ言葉を、覚悟をもって言っているのだろう。「運命か」「進行をとめられないのか」という切実な思いが、胸を締め付けて生まれた一首。心も体の痛みも、本人にしか真にわからないかもしれないが、作者の心に寄り添うことはできる。共に歌を詠む人たちは仲間なのだから。


雨と風一晩荒れて朝陽差す憂さも疲れも飛んで青空   東松島市矢本/川崎淑子

【評】時には天候の良し悪しが、人の心に影響を及ぼすことがある。一晩荒れた後の「朝陽」が、恵みのように気持ちを明るくする。「飛んで青空」というストレートな快感。「青空」は心に広がる作者だけの「青空」。


窓からのこの空だけしか見えないが世の中は今かわり変わりゆく   石巻市中里/のの花

【評】窓から見る空は現実的には広くはない。けれども、作者はもっともっと広くて遠い空を見ようとしている。だからこそ「世の中」の変化を感じている。


木星が月と並んで土俵入り脇を固めるふたごとオリオン   東松島市赤井/志田正次

もはや母おらぬ施設のライムグリーンの屋根斜すにみて今日もスーパーへ   石巻市開北/ゆき

見事だなスーパームーン輝いて日本の空を英語で照らすか   東松島市矢本/畑中勝治

南天の赤い実ついばむ鳥たちを追い払えずに笑って見てる   石巻市水押/佐藤洋子

桜葉(さくらば)は道を彩りいっせいの風の破調に乱舞しており   東松島市矢本/田舎里美

卒寿なる奮起うながし明日へと体調気づかい今日も暮れゆく   石巻市わかば/千葉広弥

あっそうかこういう視点かなる程と学びつつ楽しむ日曜文芸   東松島市赤井/佐々木スヅ子

ゆく秋の折々にしてうらがなし風なき午後の巷を歩む   石巻市あゆみ野/日野信吾

杖の音響かせゆるりポストへと投稿はがき一枚持ちて   石巻市不動町/新沼勝夫

過ぎし日に夫と歩みし紅葉の山テレビに写るを黙して見詰む   石巻市桃生町/千葉小夜子

だんだんと生活厳しい世の中で動物は人間との境守れず   石巻市水押/阿部磨

亡き夫の面影残す子らのいて時の仕草にふと甦る   石巻市蛇田/櫻井節子

七五三羽織袴の孫連れてビデオに残る亡き夫の声   東松島市矢本/門間淳子

病床に伏して半年妹は病と向き合い闘い続く   石巻市桃生町/西條和江