短歌(1/11掲載)

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【斉藤 梢 選】


「おはよう」といえば顔あげ「ざいます」と少年一人ストレッチする   石巻市流留/大槻洋子

【評】少年に挨拶をする朝。この時にかえってきた言葉が「ざいます」。「おはようございます」ではなく、作者の言葉に即反応しての「ざいます」。それでも、二人の間に交わされている思いがあることが「顔あげ」という行為でわかる。作者の声の「おはよう」と少年の声の「ざいます」の連なりで生まれる独特な言葉の化学反応。現代短歌の言語は日々変化してきているし、日常会話での<省略>も多い。それでも顔をあげた少年の一言は、作者の朝の心を明るくしたのだと思う。


弱火でも農が続くは温かいほのぼの照らす畝は美しい   石巻市桃生町/佐藤俊幸

【評】「弱火」であっても「農」の「火」を絶やさずにいることは温かい。「火」は作者の農への思いであり、作業そのものだと読み取る。<強火>の時もあったのだろう。それでも「弱火」が照らす畝もまた「美しい」のだ。結句の「畝は美しい」は、土に触れている作者だからこその感慨だろう。「温かい」と思える実感が読者の心を打つ。今の世で「美しい」と感じることができるものは何か。新しい年の初めに考えてみたい。


冬空を窓から眺め庭見れば寂しき色の南天の赤   石巻市須江/遠藤由美子

【評】冬の庭に彩りを添える南天の赤。「難を転ずる」縁起の良い木とされている「南天」。「冬空」と「寂しき色」が呼応していて、この「赤」を「寂しき色」と感受した作者。心情を表した「赤」だったのかも。


新米が出たのに今朝もパン屑かと雀が嘆く米の高値を   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】雀も嘆く「令和の米騒動」。新米が出たのに値が高いという現実。嘆いているのは人だけではない。この詠みぶりが「高値」の切実さを伝えている。


大根の天日干し掛け老夫婦潮風痛し入り江の畑   東松島市赤井/茄子川保弘

年重ね行動範囲狭まれど心の翼大空に舞う   石巻市あゆみ野/日野信吾

またなのか地震知らせる奇妙な音願うは無事に新たな年を   東松島市矢本/畑山真弓

助手席は愛犬ポン太の指定席逝きて七年いまでもそこに   東松島市矢本/畑中勝治

強き赤どうだんの傍つわぶきの小さき黄花 晩秋の彩   東松島市矢本/門馬善道

また暗い歌ねと我に我が言う明るい歌を詠みなさいよね   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

おかげさまおたがいさまとありがとう「縁(えん)」を大事に新たな年も   東松島市矢本/菅原京子

置いていた長女の手荷物送るなり空いたその場に静寂すわる   東松島市矢本/川崎淑子

良くはなき検査結果を聞くために甘すぎるケーキ二つ用意す   石巻市開北/ゆき

羅針盤と夫を偲びし友の歌ひと筋の光我をみちびく   東松島市矢本/田舎里美

今朝早く鳴く鳥に覚めて窓あける親を呼ぶのか寂しく聞こゆ   石巻市桃生町/千葉小夜子

此の年も師走となりて歳重し遠山の雪真白く光る   石巻市駅前北通り/津田調作

早起きし寒さに負けず年重ね震後(しんご)十四年驚くばかり   仙台市泉区/千葉咲子

里山の杣道ゆけば冬枯れの道に一輪菊咲きにけり   石巻市三ツ股/浮津文好