短歌(4/5掲載)

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【斉藤 梢 選】


待合室に釣り舟の絵を眺めればひたひた海が胸に満ちくる   東松島市矢本/田舎里美

【評】おそらく病院の待合室だろう。飾ってある絵を眺めながら診察の時を待っている作者。「絵を見れば」とせず「絵を眺めれば」としたことで、少し長い間、その絵の世界を味わっていることがわかる。下の句は、想像することで感じたことを表現して「ひたひた」が海の水の質感を伝えていて抒情的。想像力は時には心を豊かにしてくれると思う。短歌の鑑賞も、言葉をたどりつつ作者の目になって、心に寄り添って想像して一首を読むと、発見もあり世界がひろがる。


水仙の芽「私はここよ」と小さき手えらいよ君は約束守って   石巻市渡波町/小林照子

【評】春を感じての作。「水仙の芽」を「小さき手」としている見立てが良い。「水仙」に思いを寄せて愛しく感じているからこその「えらいよ君は」。現実的に社会ではさまざまな変化があり、戦闘もあり、考えさせられることが多いけれど、植物は必ず「約束守って」春には芽を出す。「約束」の一語が際立っていて、春のよろこびをも表現している。


すぐ会えぬ遠くの友へのペン便り桜押し花便箋の中   石巻市西山町/藤田笑子

【評】便りを交わす相手がいることの幸。遠くに暮らす友であれば、手紙での会話は心の支えになるだろう。便箋の中にそっとしのばす「桜押し花」が優しい。手紙だからこそできるささやかな粋な贈り物。


あの世にはなつかしき人みんないるいろんな話をしたくなりたり   石巻市高木/鶴岡敏子

【評】「なつかしき人みんないる」という思いに頷く。歳を重ねてゆくことは、親しい人らとの悲しい別れもしなければならない。会いたいとせず、下の句のように話をしたいと詠む。一首に切なる願いが滲む。


今年はや春告草のうすピンク変わらぬ自然のぬくもりに酔う   石巻市南中里/中山くに子

海の水に鍛えられたるこの身体(からだ)今にして想う有り難うよ海   石巻市駅前北通り/津田調作

すべりくる光に透けてくれなゐの椿は春を身籠もりてをり   石巻市開北/ゆき

雪山をとうに忘れしピッケルをサクサク里の雪で遊ばす   石巻市流留/大槻洋子

雪予報信じて出した長靴を履きて踏み出す薄雪の朝   石巻市二子/小松道男

野蒜浜寒風に立つ流木の馬暖かな春をじっと待ってる   東松島市矢本/畑中勝治

土寄せはまだまだ要らぬ玉ねぎの苗はきびしく冬を彷徨う   石巻市桃生町/佐藤俊幸

名を呼ばれ布団はねのけ目をこする夢に現る親父懐かし   石巻市門脇/佐々木一夫

神戸から十五年通うボランティア歌声響かせ我ら励ます   石巻市あゆみ野/日野信吾

昇りくる三・一一の陽は眩しまぶたの裏の朱きを見つむ   石巻市日和が丘/中根敏明

短歌投稿中味よしあしどうあれど挑むはわれの糧となりをり   石巻市わかば/千葉広弥

それぞれの進む旅路は違えどもどうか幸せにと願う我   東松島市矢本/畑中真弓

妻に会うため海深く潜る夫いるを知るどうか出会って早く   東松島市矢本/菅原京子

春弥生季節もどりて雪景色咲いた白梅寒さにふるう   東松島市矢本/門間淳子