【斉藤 梢 選】
待合室に釣り舟の絵を眺めればひたひた海が胸に満ちくる 東松島市矢本/田舎里美
【評】おそらく病院の待合室だろう。飾ってある絵を眺めながら診察の時を待っている作者。「絵を見れば」とせず「絵を眺めれば」としたことで、少し長い間、その絵の世界を味わっていることがわかる。下の句は、想像することで感じたことを表現して「ひたひた」が海の水の質感を伝えていて抒情的。想像力は時には心を豊かにしてくれると思う。短歌の鑑賞も、言葉をたどりつつ作者の目になって、心に寄り添って想像して一首を読むと、発見もあり世界がひろがる。
水仙の芽「私はここよ」と小さき手えらいよ君は約束守って 石巻市渡波町/小林照子
【評】春を感じての作。「水仙の芽」を「小さき手」としている見立てが良い。「水仙」に思いを寄せて愛しく感じているからこその「えらいよ君は」。現実的に社会ではさまざまな変化があり、戦闘もあり、考えさせられることが多いけれど、植物は必ず「約束守って」春には芽を出す。「約束」の一語が際立っていて、春のよろこびをも表現している。
すぐ会えぬ遠くの友へのペン便り桜押し花便箋の中 石巻市西山町/藤田笑子
【評】便りを交わす相手がいることの幸。遠くに暮らす友であれば、手紙での会話は心の支えになるだろう。便箋の中にそっとしのばす「桜押し花」が優しい。手紙だからこそできるささやかな粋な贈り物。
あの世にはなつかしき人みんないるいろんな話をしたくなりたり 石巻市高木/鶴岡敏子
【評】「なつかしき人みんないる」という思いに頷く。歳を重ねてゆくことは、親しい人らとの悲しい別れもしなければならない。会いたいとせず、下の句のように話をしたいと詠む。一首に切なる願いが滲む。
今年はや春告草のうすピンク変わらぬ自然のぬくもりに酔う 石巻市南中里/中山くに子
海の水に鍛えられたるこの身体(からだ)今にして想う有り難うよ海 石巻市駅前北通り/津田調作
すべりくる光に透けてくれなゐの椿は春を身籠もりてをり 石巻市開北/ゆき
雪山をとうに忘れしピッケルをサクサク里の雪で遊ばす 石巻市流留/大槻洋子
雪予報信じて出した長靴を履きて踏み出す薄雪の朝 石巻市二子/小松道男
野蒜浜寒風に立つ流木の馬暖かな春をじっと待ってる 東松島市矢本/畑中勝治
土寄せはまだまだ要らぬ玉ねぎの苗はきびしく冬を彷徨う 石巻市桃生町/佐藤俊幸
名を呼ばれ布団はねのけ目をこする夢に現る親父懐かし 石巻市門脇/佐々木一夫
神戸から十五年通うボランティア歌声響かせ我ら励ます 石巻市あゆみ野/日野信吾
昇りくる三・一一の陽は眩しまぶたの裏の朱きを見つむ 石巻市日和が丘/中根敏明
短歌投稿中味よしあしどうあれど挑むはわれの糧となりをり 石巻市わかば/千葉広弥
それぞれの進む旅路は違えどもどうか幸せにと願う我 東松島市矢本/畑中真弓
妻に会うため海深く潜る夫いるを知るどうか出会って早く 東松島市矢本/菅原京子
春弥生季節もどりて雪景色咲いた白梅寒さにふるう 東松島市矢本/門間淳子