【斉藤 梢 選】
つるむらさきと知ればいでくる調理法朝は汁菜に夕べは短歌 石巻市南中里/中山くに子
【評】夏が旬の「つるむらさき」。この一首の優れたところは「知れば」という心の動きを詠み込んだことであろう。そして、調理と歌を詠むことは似ていることに気づかせてくれる。作歌の時には、何を詠み、どのように詠むかを考える。調理する時も、材料を選び、それをどのように使い、どんな味に仕上げるかを想像する。作者は、朝には「汁菜」にして、夜には「つるむらさき」を詠み込んだ歌を作ろうと思っている。この、柔軟な思考が作者らしくて魅力がある。
マネキンのお下がり着せて頬被りさせて案山子と護る豊の秋 多賀城市八幡/佐藤久嘉
【評】田に立つ「案山子」には、稲を守る役目がある。今ではその姿を見ることも少なくなってきている。この一首は「案山子と護る豊の秋」の表現の「護る」に作者の豊作への願いが表れていて、その光景も見えるよう。「守る」とせずに「護る」という言葉を選んだところが優れている。「方十里稗貫のみかも稲熟れてみ祭三日そらはれわたる」。9月21日に亡くなった宮沢賢治の絶筆。豊作を喜んでの終焉だった。
追憶が心揺さぶるサンマ群れ灯りに踊り暴れて爆ぜて 石巻市水押/阿部磨
【評】サンマが豊漁だった時のことを「追憶」として詠む作者。サンマの群れの勢いを、下の句で生き生きと写生している。昨年は豊漁だったのに、今年は高値。日本の秋には、やはり焼く煙と秋刀魚。
昨日まで鳴きいし蟬が息絶えておだまきの下そっとそのまま 石巻市羽黒町/松村千枝子
【評】蟬の命の儚さが、人の命の儚さをも思わせる。命あるものの最後の姿を、静かに祈るように見つめる作者。「そっとそのまま」に哀感が漂う。
病窓に眺める空は唯青し病に負けし吾が身の悲し 石巻市駅前北通り/津田調作
晩年と言えど生きてる今がいい夕焼けきれいで信じる明日(あした) 石巻市渡波町/小林照子
読み終へし分厚き本をたたむごとパタンと音たて閉ぢたる記憶 石巻市あゆみ野/日野信吾
ふと見れば避難経路図の鋲さびて歳月の街に呑気のあふる 石巻市開北/ゆき
立秋を過ぎても盛る花むくげ夏はいつまで蜩に問う 東松島市矢本/門馬善道
クラフトの小花創りの夫の指新たな菊を青く咲かせる 東松島市矢本/田舎里美
鎮魂の祈りを込めて奏される楽都に響くそれぞれのA(アー) 東松島市赤井/志田正次
真夜中にふと目を覚まし思い遣る亡き母の独居の心細さを 東松島市赤井/佐々木スヅ子
期待する蒔いた分だけ実ること取らぬ狸が心に住める 石巻市桃生町高須賀/佐藤俊幸
災害は忘れた頃にと言ふけれど忘れる間もなくよくもここまで 東松島市矢本/畑中勝治
声が出ず話のできぬ我が姿あらがいつつも生きるしかなし 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
川の岸ドーバーに似た所ありその地に立てば涙溢れる 石巻市鹿又/門間典彦
里の地の秋彼岸なる月影や思い起こすに萩散りゆけり 石巻市二子/小松道男
ガラス越し如何に私が見えますか時に目が合うこの金魚たち 石巻市蛇田/櫻井節子