短歌(10/4掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【斉藤 梢 選】


つるむらさきと知ればいでくる調理法朝は汁菜に夕べは短歌   石巻市南中里/中山くに子

【評】夏が旬の「つるむらさき」。この一首の優れたところは「知れば」という心の動きを詠み込んだことであろう。そして、調理と歌を詠むことは似ていることに気づかせてくれる。作歌の時には、何を詠み、どのように詠むかを考える。調理する時も、材料を選び、それをどのように使い、どんな味に仕上げるかを想像する。作者は、朝には「汁菜」にして、夜には「つるむらさき」を詠み込んだ歌を作ろうと思っている。この、柔軟な思考が作者らしくて魅力がある。


マネキンのお下がり着せて頬被りさせて案山子と護る豊の秋   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】田に立つ「案山子」には、稲を守る役目がある。今ではその姿を見ることも少なくなってきている。この一首は「案山子と護る豊の秋」の表現の「護る」に作者の豊作への願いが表れていて、その光景も見えるよう。「守る」とせずに「護る」という言葉を選んだところが優れている。「方十里稗貫のみかも稲熟れてみ祭三日そらはれわたる」。9月21日に亡くなった宮沢賢治の絶筆。豊作を喜んでの終焉だった。


追憶が心揺さぶるサンマ群れ灯りに踊り暴れて爆ぜて   石巻市水押/阿部磨

【評】サンマが豊漁だった時のことを「追憶」として詠む作者。サンマの群れの勢いを、下の句で生き生きと写生している。昨年は豊漁だったのに、今年は高値。日本の秋には、やはり焼く煙と秋刀魚。


昨日まで鳴きいし蟬が息絶えておだまきの下そっとそのまま   石巻市羽黒町/松村千枝子

【評】蟬の命の儚さが、人の命の儚さをも思わせる。命あるものの最後の姿を、静かに祈るように見つめる作者。「そっとそのまま」に哀感が漂う。


病窓に眺める空は唯青し病に負けし吾が身の悲し   石巻市駅前北通り/津田調作

晩年と言えど生きてる今がいい夕焼けきれいで信じる明日(あした)   石巻市渡波町/小林照子

読み終へし分厚き本をたたむごとパタンと音たて閉ぢたる記憶   石巻市あゆみ野/日野信吾

ふと見れば避難経路図の鋲さびて歳月の街に呑気のあふる   石巻市開北/ゆき

立秋を過ぎても盛る花むくげ夏はいつまで蜩に問う   東松島市矢本/門馬善道

クラフトの小花創りの夫の指新たな菊を青く咲かせる   東松島市矢本/田舎里美

鎮魂の祈りを込めて奏される楽都に響くそれぞれのA(アー)   東松島市赤井/志田正次

真夜中にふと目を覚まし思い遣る亡き母の独居の心細さを   東松島市赤井/佐々木スヅ子

期待する蒔いた分だけ実ること取らぬ狸が心に住める   石巻市桃生町高須賀/佐藤俊幸

災害は忘れた頃にと言ふけれど忘れる間もなくよくもここまで   東松島市矢本/畑中勝治

声が出ず話のできぬ我が姿あらがいつつも生きるしかなし   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

川の岸ドーバーに似た所ありその地に立てば涙溢れる   石巻市鹿又/門間典彦

里の地の秋彼岸なる月影や思い起こすに萩散りゆけり   石巻市二子/小松道男

ガラス越し如何に私が見えますか時に目が合うこの金魚たち   石巻市蛇田/櫻井節子