俳句(12/22掲載)

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【石母田星人 選】

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門柱に日ざし訪ねてくる冬至  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】きょうは冬至。昼間が最も短く、太陽の力が一番弱い日だ。きょうを境に、衰えていた太陽の力が勢いを取り戻し、昼の時間は徐々に長くなっていく。この句、門柱に照りかげる冬日ざしに焦点を当てた。頼りない淡い光が、門柱にもたれかかっているように見えたのだろう。冬至の日ざしの弱々しさを擬人法で巧みに表現している。どっしりとした門柱が効果的。

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恍惚と沐浴の嬰実南天  (東松島市新東名・板垣美樹)

【評】赤ちゃんのお風呂の時間。上五「恍惚(こうこつ)と」が印象的。「うっとりと」では言い足りないのだろう。昔は体をガーゼでくるんで、お湯を掛けながら洗ったものだ。近ごろの沐浴(もくよく)はどんなふうにするのだろう。赤ちゃんの表情を見つめる作者の笑顔が見えてくる。

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しぐるるや箪笥に眠る訪問着  (石巻市中里・上野空)

【評】肩から裾までに流れるような模様が描かれている訪問着。しぐれに出合うと必ずあの着物のことを思い出す。しぐれは記憶を呼び覚ますスイッチだ。

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徒花や荒磯飾る波の花  (石巻市門脇・佐々木一夫)

【評】波の花は、冬の日本海岸に多く見られる波の泡の白い塊。激しい季節風にもまれた黒い海面に咲く潮花は何とも神秘的。その光景に心奪われた作者。

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風花や峠越え来て月の浦  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

浜めぐり自分めぐりの年の暮  (石巻市恵み野・木村譲)

菊摘むや髪梳く指の夜も匂ふ  (石巻市小船越・三浦ときわ)

武者走り銀杏落葉の埋め尽くす  (石巻市桃生町・西條弘子)

枯野中隠すものなき一里塚  (東松島市矢本・紺野透光)

蔵王背に癒えたる妻と大根引く  (石巻市蛇田・石の森市朗)

日めくりに未知の膨らむお正月  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

深閑と冬三日月の孤高かな  (仙台市青葉区・狩野好子)

寒の水のんで胃の腑を目覚めさす  (石巻市小船越・芳賀正利)

深秋や前行く人も美術館  (石巻市中里・川下光子)

水桶や色の葉捕ふ初氷  (石巻市南中里・中山文)

たつぷりとしわとしみ得て傘寿冬  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

寒座敷一人居に呼ぶ電子音  (石巻市開北・星ゆき)

小夜時雨一枚となる農暦  (東松島市矢本・菅原れい子)

踏切に見あぐる空や冬に入る  (石巻市駅前北通り・小野正雄)

磯菊や遺品さがしてひとかけら  (石巻市元倉・小山英智)