【石母田星人 選】
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ライトアップの船と交信冬銀河 (石巻市相野谷・山崎正子)
【評】宮城県慶長使節船ミュージアムにある復元船サン・ファン・バウティスタ号がライトアップされている。展望棟の上から眺めると、黄金色に照らされている船体が、別の時空を漂っているようにも見える。中七の「交信」でその感覚を表現した。視覚を通して心に浮かんだ光景をどのように表現するかは難しい。ニュースではこの風景を毎年同じように「幻想的」と表現している。だが新鮮な俳句ではそうはいかない。
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散もみぢふかぶかと踏み滝の裏 (石巻市桃生町・佐々木以功子)
【評】もみじの鮮やかな葉で埋め尽くされた小道。そこを通って滝の裏手に回って来たのだ。喜怒哀楽を直接言わないで表現するのが俳句の基本。この「ふかぶかと」には驚きと喜びと楽しさがこめられている。
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あれこれで解る会話の師走かな (石巻市吉野町・伊藤春夫)
【評】同じ短い言葉でも、言い方の違いで気持ちが伝わるのは、そこに信頼関係が築かれているからだ。加えて師走の気ぜわしさが長い会話を許さない。
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米寿祝う主賓仄かに菊匂う (石巻市北上町・佐藤嘉信)
【評】米の字をくずして書くと八十八と読めることから米寿。お祝いの色は黄や金色。会場に菊があるのだろう。「仄(ほの)か」から和やかな雰囲気が見えてくる。
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肉筆の糸杉猛し村時雨 (仙台市青葉区・狩野好子)
風花や北上大河に戸惑ひて (多賀城市・佐藤久嘉)
葱蕎麦をひとくちすする時雨かな (東松島市矢本・雫石昭一)
年用意優勝カップを磨きけり (東松島市矢本・紺野透光)
泥葱の束をどつさり米袋 (石巻市中里・川下光子)
冬ざれやトマトケチャップ飛び散りて (東松島市新東名・板垣美樹)
庭草に別れを告ぐる寒肥かな (石巻市南中里・中山文)
秋夕焼仮設に残るカレンダー (石巻市中里・鈴木登喜子)
一片の雲寄る小春富士の山 (石巻市広渕・鹿野勝幸)
晩学の光合成か冬うらら (石巻市開北・星ゆき)
雪ばんば額づく墓に溶け込みて (石巻市門脇・佐々木一夫)
それぞれに重き喪中のはがきかな (石巻市恵み野・木村譲)
梵鐘の銘文かすれ花八ツ手 (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)
ひこばえが早苗の如く整然と (石巻市桃生町・高橋冠)
棹になり雁鳴きわたる朝まだき (石巻市三ツ股・浮津文好)
行商の母のもんぺや秋の暮 (石巻市のぞみ野・阿部佐代子)