俳句(1/5掲載)

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【石母田星人 選】

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松が枝を透かし令和の初日かな  (石巻市南中里・中山文)

【評】松竹梅のひとつの「松」。日本では神としてあるいは神が宿ることのできる清浄な存在としてよく慶事に用いられる。掲句の松は枝ぶりよく剪定されている。その常緑の松を透過して令和の初日が届いた。

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去年今年積みクルーズの離岸かな  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】デッキから初日の出を楽しむクルーズの光景だろう。上五「去年(こぞ)今年」は新年の季語。大みそかの一夜にして去年と今年が入れ替わることを言う。去りゆく年を惜しみつつ、今年へ夢をはせるという越年の意識も含んでいる。それらすべてを積み込んだという上五から中七の表現が掲句の魅力だ。年の変わり目の漠とした感覚は洋上での揺れに近いような気もする。また「離岸かな」の詠嘆は新年の旅の始まりを語る。

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かたまつて白鳥の田と雁の田と  (石巻市桃生町・西條弘子)

【評】日中は水辺近くの田んぼに行って給餌をする水鳥たち。白鳥と雁が田ごとに分かれて泥にまみれている。対象を素手でつかんだような実感があり好感。

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でこぼこの柚子の香りの勢いかな  (仙台市青葉区・狩野好子)

【評】下五の「勢(きお)い」が独特。例えば「強さ」では言い表せなかったのだろう。想像以上に元気な威勢のいい香りだったのだ。柚子湯の句なのかもしれない。

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渋柿を剥くテーブルに来る夕日  (石巻市蛇田・石の森市朗)

一行の余白もなくて年詰まる  (石巻市相野谷・山崎正子)

番鴨泥の水尾引く日暮かな  (石巻市小船越・三浦ときわ)

買初に極彩色の松葉杖  (東松島市矢本・紺野透光)

係留の綱に雪また氷柱かな  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

ほんのりと山茶花の白暮れにけり  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

無医村に古稀を迎える冬の医師  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

手品師の予測はできて竜の玉  (石巻市中里・川下光子)

結界を埋め尽したる猛吹雪  (石巻市小船越・芳賀正利)

冬木の芽光零るる無人駅  (東松島市新東名・板垣美樹)

喧騒の街の外れや大枯木  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

藁仕事薬缶の蓋が笛を吹く  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

冬ざれや野良猫に撒く魚の骨  (石巻市開北・星ゆき)

青森の冷たさ抱いて着くりんご  (東松島市矢本・菅原れい子)

隙間風仮設の灯り二軒ほど  (石巻市元倉・小山英智)

冬の海まっすぐ向いて津波地蔵  (石巻市渡波町・小林照子)