短歌(3/22掲載)

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【斉藤 梢 選】


片言の野菜言葉で問いかける冬の日向ぼこ春はそこまで   石巻市桃生/佐藤俊幸

【評】春を待つ歌。作者は冬のある日に日向ぼこをしつつ、問いかける。では、何に向かって問いかけているのだろう。「片言の野菜言葉で」作者が<春>に<土>に<風>に向けて、春の訪れは何時かと話しかけ「野菜」や種の気持ちになって、農耕の時期を待っていると解釈した。今はドローンでの種まきもあるが、人の手によって種をまき、生育を見守るという作業は地道で根気がいる。そこには、野菜と人との心の通い合いがある。そのことを改めて思わせてくれる一首。


花粉症春の涙の原因に戦火の煙追加されゆく   東松島市矢本/川崎淑子

【評】「戦火の煙」に涙する春。作者は戦争が現在さまざまな場所でおきていることへの心の痛みを、このように表現した。「追加されゆく」と詠み、居たたまれなくなる。「涙」は、自身の感情の極まりにより流す涙と、頬を伝い自ずと流れてしまう涙がある。「花粉症」の涙と「戦火の煙」による涙はあきらかに違う。戦闘、爆撃、空爆、戦火という言葉をニュースで聞く日々。「原因」の一語で、作者の戦争への怒りを受け取る。


わたくしを用心深くした津波いまなおムンクの叫びに怯える   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】今年も東日本大震災の日の黙祷の刻が来た。十五年経ても「なお」作者を苦しめている津波の記憶。下の句が「津波」の恐ろしさを強く伝えていて、単なる心象詠ではなく<心災>の歌であると思う。


ガラスかと見える水面生きていて小石ひとつにさざ波生(あ)れる   石巻市流留/大槻洋子

【評】水面が寒さで凍ってガラスのように見える。「水面生きていて」の感受に惹かれる。人の心にも、小さな出来事や言葉によって生まれる「さざ波」がある。


へたりこむ避難所前ににぎり飯そのあたたかさ今も忘れじ   石巻市あゆみ野/日野信吾

老いの我にはさいごであろうオリンピック国を支えた若きらの愛   石巻市南中里/中山くに子

牡蠣を剥く浜の老人の手を見れば寒さに耐えた指の関節   女川町浦宿浜/阿部光栄

<りくりゅう>の快挙にもらい涙して青空ながめ今日が始まる   石巻市西山町/藤田笑子

群がりて種子を啄む雀らを見てをれば浮かぶ飢餓の国ぐに   石巻市門脇/佐々木一夫

被災地の駅に仰げる大けやき復興見て来し立春の光(かげ)   石巻市開北/ゆき

理不尽なことが正しいかのようにここで生き抜く術はあるのか   東松島市矢本/畑山真弓

祈れどもいまだ消えずに残る影わが身老いれどあの春の波   石巻市駅前北通り/津田調作

日帰り湯寝湯して見てる白い雲憂い事みな乗せてやりたし   東松島市矢本/菅原京子

大根の重さリュックに帰宅せりチャックのすき間葉っぱ振り振り   石巻市渡波町/小林照子

本州の北の岬の寒立馬吹雪にまみれ白馬となるか   東松島市矢本/畑中勝治

祖母の味真似してみても今ひとつ昔ながらの味の懐かし   石巻市須江/遠藤由美子

相棒の杖を頼りに散歩する吹く風やさしくそろり背を押す   石巻市不動町/新沼勝夫

春魁(さきが)けて芳香放ち蝋梅咲く小さなからだ寒風に耐えて   石巻市蛇田/菅野勇