河北新報特集紙面2017

2017年11月26日 命を学ぶ見晴らしの地に集いの喜びを願って。

命を学ぶ見晴らしの地に集いの喜びを願って。

復興に向け躍動あふれる南三陸町に生まれた、慰霊の祈りを捧げ、減災の教訓を未来へ託すための集いのフィールド「海の見える命の森」。一般社団法人KOTネットワーク本吉が中心となり、多くのボランティアの手によって切り拓かれたこの展望の地を、本プロジェクトで募った一般参加者たちが訪れました。もっとたくさんの人たちがこの森に訪れ、憩いの時を過ごしてもらえるよう、案内看板の設置や植樹に協力。そして、志津川湾を一望する高台に立ち、刻々と変ぼうしていく南三陸の町並みを俯瞰しました。

震災の爪痕をたどり力強い再生の今を確認

 清々しい秋晴れの朝、一行を乗せたバスが仙台駅を出発し、南三陸ホテル観洋に向かいました。現地で出迎えてくれたのは、一般社団法人KOTネットワーク本吉の代表理事、阿部寛行さんと、ツアーをコーディネートしたNPO法人ボランティアインフォのメンバー。南三陸・本吉・気仙沼の復興観光コンシェルジュセンター事業や、減災体験・避難所体験・減災語り部事業、東日本大震災復興支援ボランティア事業を柱に地域の復興を支える活動を展開しています。館内に招き入れられ、まずは、南三陸町の被災状況と活動の意義を伝える「減災講話」を語ってくれました。何事も無かったかのように海で輝く震災翌日の朝日をスクリーンに映しながら、「たとえすべてが元通りに復旧しても、決して失った命や震災の記憶を無かったことにはしたくありません。次にやってくる大災害から命を守るための教訓を継承する場所として、一緒に森づくりに取り組んでください」と、活動前にエールを送りました。

 一行はバスに戻り、南三陸町の復興状況を視察。阿部さんと南三陸ホテル観洋の伊藤俊さんも同乗し、語り部ガイドを務めてくれました。沿道で盛土工事が進む町内を進み、最初の目的地である南三陸町防災対策庁舎に到着。現在は少し離れた場所に献花台が設けられていますが、鉄筋の骨組みを残すだけの無残な姿はそのままで、参加者は改めて津波の凄まじい威力を実感しました。そして、民間震災遺構となっているかつての結婚式場、高野会館へ。伊藤さんは建物の前に立ち、327人と犬2匹が屋上に非難して命を長らえたあらましを教えてくれました。「昔、町を襲った大津波を知る住民の方の判断が、多くの命を救いました。災害に対する一番の備えは心。これから震災を知らない世代へ、私たちがどう伝えていくかが課題ですね」とも語りました。さらにバスは、目新しい南三陸町地方卸売市場や海水浴場として再開したサンオーレそではま、山手にある復興公営住宅も訪ね、新たなまちづくりが行われている現場にも触れ、ホテルに戻りました。

避難時の鬼気迫る実体験を語ってくれた南三陸ホテル観洋の伊藤さん 【左】/今もたくさん人が訪れて花が手向けられている南三陸町防災対策庁舎 【右】/今もなお津波の威力を物語っている高野会館を間近で見学

南三陸の未来を見渡す森の広場をつくるお手伝い

 昼食を取った後、参加者は山仕事の装備を整え、「海の見える命の森」へ出発。ホテルから数分歩いた先にあるうっそうと茂る山林の入口には、阿部さんをはじめ地元の協力者の方々が待ち受けていました。参加者は、植樹チームと看板作りチームに分かれ、「エイエイオー!」の掛け声を合図に作業スタート。まずは、植樹チームが、樹木やスコップ、腐葉土、水の入ったタンクなどを抱え、高台の広場を目指します。今回、用意したのは、ヤマボウシ3本とコノハウチワカエデ3本。「すでに44本の桜の木を植えているのですが、秋も紅葉を楽しんで欲しくて」と、期待で目を輝かせる阿部さん。散策路は丸木を利用した階段になっていますが、傾斜がやや急で重い荷物を運びながら歩くのは困難です。それでも、背の高さを超える樹木を数人単位で担ぎ、お互いに声をかけながら無事広場にたどりつきました。広場に到着すると、志津川湾を一望できる見事なパノラマに思わず声がもれる植樹チームのメンバー。そんな絶景に元気をもらいながら、植樹作業に励みました。

 入口前では、資材と原稿を手にした参加者たちが、看板作りに奮闘。散策路に一定間隔で設置する案内表示と樹木の名前、取り組みの意義などを伝える看板を手がけました。それぞれペンキと刷毛、油性ペンを手にし、丁寧に文字や矢印、飾り模様などをペイント。「津波てんでんこ」の教えを示す看板を担当したメンバーは、「メッセージがちゃんと伝わるように、漢字を平仮名にしたり改行してみたりと、読みやすく工夫してみました」と、できに自信たっぷりの様子でした。すべての看板ができあがるころ、植樹チームが合流。看板を設置しながら上を目指し、全員で広場に集合しました。

KOTネットワーク本吉の阿部さんを先頭に高台を目指す参加者たち 【左】/真剣な眼差しで丁寧に文章を書き込んでいく看板作り 【右】/手作りのオリジナル看板を散策路と広場の各地に設置

命を守る教訓を次の世代へ継承するために

 すべての作業を終え、満足そうな参加者たち。阿部さんは、これから東屋やバイオトイレなども設置し、いつかお花見の会を開きたいという展望を語ります。そして、“伝えよ千年万年 津波てんでんこ”と刻まれた石碑に目を向けながら、「痛ましいことがあった地ですが、この森をきっかけに地元の人たちと交流を図り、笑顔と元気を共有してくれるとうれしいです」と結びました。ツアーの締めくくりは、先日発足した海の見える命の森創り実行委員会委員長の後藤一磨さんが、「志津川湾に注ぎ込む山の水は、海の生態系を支える命の源となっています。その水流が生まれる場所で、命の尊さを学んで欲しいと思っています」と語り、一同は深くうなずきながら拍手を送りました。

海の見える命の森創りサポートボランティア問い合わせ先
南三陸ホテル観洋 担当/伊藤俊・昆野  TEL.0226-46-2442

南三陸復興支援ボランティアツアー 参加者の声

東京都板橋区

牧 杏香さん

 最近は、身近な人の間で震災の話題が取り上げられることが少なくなりましたが、このツアーで南三陸町の現状や実体験にふれることができ、震災の恐ろしさをリアルに肌で感じる機会となりました。私は、「津波てんでんこ」の教えを伝える看板を制作したのですが、その意味を私自身が学びながら、みなさんに読んでもらいたいという気持ちを込めて書くことができたと思います。

仙台市太白区

菅谷 仁美さん

 親しい友人をこの南三陸町で亡くし、その最後の足跡と思われる南三陸町防災対策庁舎には、これまで何度も足を運びました。町内見学で伊藤さんがバスの車中で見せてくれた、震災当日や被害状況の写真には、とてもたまらない気持ちになりました。そんな、南三陸町の今をたどりながら、命の大切さを知る森づくりの体験ができ、とても大きな意義を感じています。

大和証券株式会社仙台支店の

小林武彦支店長(左)と米丸淳司さん

 震災後、南三陸町には仕事で何度か訪れたことがありますが、報道されていない南三陸町の情報を得る貴重な機会となりました。このツアーでは植樹を担当しましたが、無事、健やかに成長していってくれることを願っています。この森の存在をもっとたくさんの方に知って訪れていただきたいですし、この場所で学ぶ震災の教訓や防災の教えについても広まって欲しいですね。(小林支店長)

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