河北新報特集紙面2015

2017年4月23日 河北新報掲載 さらに、その先を見つめて。

次世代が語る、次世代と語る311震災伝承と防災

1. 地域の食を通じた観光支援

牡鹿半島の旅に、新たなご当地グルメを。

観光の目玉となる 新たな味覚の楽しみを

 伝統捕鯨や牡蠣やワカメなどの養殖といった、半島独特の地形を生かした漁業で知られる牡鹿半島。この地もやはり、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けました。そこで、半島の自然に親しむ観光客を集め、この地域に活気をもたらすために新たな地元名物となり得る「おしかグルメ」づくりにチャレンジ。牡鹿地区の人々と仙台市内のレストランシェフたちが強力なタッグを組みました。
 昨年9月25日、プロジェクトに賛同してくれた「フレンチレストラン プレジール」佐藤克彦シェフと「ビストロ アンセルクル」佐々木現人シェフが、石巻市狐崎浜を訪問。 おしかリンク代表の犬塚恵介さんをガイド役に、牡蠣漁師の阿部政志さんに取材を行い、牡鹿ならではの海の幸についてリサーチしました。そして、鮎川浜の番屋で、「割烹民宿めぐろ」のご主人・目黒繁明さんと民宿の女将さんたちに対面。震災後、客足が遠のいている現状と、宿泊客の楽しみとなっているのが宿の食事だという話を聞きました。


右上/狐崎浜の阿部政志さん(写真右)へ、牡鹿の食材について聞く佐藤シェフ(中)と佐々木シェフ(左) 右下/鮎川地区の「番屋」で民宿の女将さんたちとミーティング 左上/犬塚恵介さん(左)と目黒繁明さん 左下/ホタテやホヤなど、大いに可能性を秘めた牡鹿半島の海の幸

人気レストランのシェフ5人が集結

 牡鹿半島が素晴らしい食材の宝庫だと手応えを得た両シェフは、さらに「フランス食堂オ・コションブルー」橘祐二シェフ、「レストランツジ」辻圭一郎シェフ、「レストラン拓」樋口拓也シェフの3人に相談を持ちかけ、「おしかグルメ」のレシピづくりを本格的にスタート。メニューのアイデアがある程度固まったところで、プロジェクトに参加する牡鹿地区の有志メンバーに味わってもらおうと、今年1月30日に橘シェフのお店「オ・コションブルー」でお披露目を行いました。


「どの料理もおいしかった」と参加者がみな大満足で終わった協賛社向けの試食会



おしかグルメ開発に手応えを感じることができた、現地関係者と5人のシェフ一同

 シェフ5人でさらなるレシピの検討を行った後、2月21日に同店で「今できることプロジェクト」協賛社向けの試食会も開催しました。当日は2部制で、参加者は50名。 プロジェクトの概要とシェフによるメニューの説明が終わった後、バイキング形式で自由に味わってもらいました。テーブルの前には、何度も並び直す参加者の列が絶えないほど大好評。 飛ぶように料理が無くなっていき、シェフたちも満足そうな笑顔を見せました。試食会の締めくくりに犬塚さんは、5人のシェフが手掛けるレシピの料理を詰め込んだ〝おしかグルメのランチボックス〟として完成させる構想を発表。会場の期待が高まりました。

ランチボックスの完成形を目指して

 ランチボックスに詰めるのにふさわしい、より身近な味わいで、日頃忙しい民宿の女将さんたちにも作りやすい献立をテーマに、さらにメニューをブラッシュアップ。4月14日、「割烹民宿めぐろ」に5人のシェフが再提案するメニューが集まりました。使用した食材は、鯨肉やワカメ、銀ザケ、アナゴなど、より多彩に。地元関係者6名は、調理の詳細なレシピを確認しながら、料理の数々を味わいました。どれも甲乙つけがたい、という意見で一致する中、目黒さんは「まずは、レシピを参考に料理してみたい」と、意気込み十分の様子。おしかグルメのランチボックスは、現在プロジェクトメンバーで完成に向けて取り組んでいますのでご期待ください。


ホヤむすびやアナゴのフリットなど、シェフたちの力作をランチボックスに詰めた試作品

半島の醍醐味をレジャーシーズンに

 太平洋の南東に突き出した牡鹿半島は、沿岸に小さな港や浜が点在。そこから、牡蠣やワカメなど多彩な海の幸がもたらされます。 また、海を望むパノラマを満喫できる「おしか御番所公園」や支倉常長出帆の地「月浦」、「宮城県慶長使節船ミュージアム(サン・ファン館)」といった観光スポットも。 内陸部には豊かな森林も育まれ、海山のレジャーやドライブを楽しむのにうってつけです。鮎川港からは、海上タクシーで金華山に渡ることができ、黄金山神社の参拝や野生のシカなどと出合える自然散策を楽しむことができます。 これからの行楽シーズン、民宿を利用してゆったり滞在しながら、牡鹿半島へ出かけてみませんか。なお、半島の味覚と観光の魅力を体験できるツアーを今後実施する予定です。詳細は今後の河北新報朝刊にて発表いたします。


左/おしか御番所公園  右/宮城県慶長使節船ミュージアム (サン・ファン館)
写真提供:宮城県観光課

2. 熊本地震復興支援

ともに手をたずさえ、新たなまちづくりへ。

熊本の商店街から復興を歩む女川へ

 2016年4月に発生した熊本地震で、建物の倒壊や観光客減少など甚大なダメージを受けた熊本県内の商店街。その再興を支える若き3人が、目を見張るスピードで復興を進める女川町を訪れ、両地の交流がスタートしました。
 昨年11月21日、熊本市下通新天街商店街振興組合の桑本知明さん、上通1・2丁目商店街振興組合専務理事の森岡大志さん、熊本市新市街商店街振興組合青年会理事の安田征司さんが、シーパルピア女川の中心にある「女川町まちなか交流館」に向かいました。 出迎えたのは、女川町商工会の青山貴博さんと、復幸まちづくり女川合同会社の阿部喜英さん。まずは、女川町における震災発生から現在に至るまでの復興の歩みを紹介しました。さらに、マルサンの高橋敏浩さんと、みなとまちセラミカ工房の阿部鳴美さんも合流し、 今後の交流を考えるトークセッションを実施。女川メンバーは、熊本地震の影響、各商店街の特徴や現在取り組んでいる施策などについて聞き取りしました。


被災直後からの女川町商工会の役割を、熊本メンバーに説明する青山さん



たくさんの仮設店舗が軒を連ねる「きぼうのかね商店街」も視察

女川メンバーが熊本で意見交換

 翌月6日、今度は女川町の4人が熊本県熊本市の中心地へ。一行が向かったのは、「くまもと県民交流館パレア」。 10階会議室では、熊本地域商業リーダーたち総勢36名が歓迎してくれました。ここでは、人間都市研究所の冨士川一裕さんを司会に、女川・熊本相互交流のキーパーソン7名と熊本大学准教授で地方創生に取り組む田中尚人さんがパネリストとして登壇し、 被災地交流シンポジウムと会場の参加者も含めたワークショップを実施。盛んな意見交換により、相互の抱える問題や目標などが洗い出されました。
 翌日は、熊本県内の被災地を視察。「阿蘇神社」や道路や家屋などの被害が大きかった益城町などを見学し、被災状況を確認しました。 最後にランチミーティングも行い、さらなる親睦を深めながら、今後の人的交流を約束して女川メンバーは帰路に就きました。


熊本地域商業リーダーたちの前で、新しい女川のまちづくりについて表明する女川町の4名



大きなダメージを受けた「阿蘇神社」を見学

着実に交流を深める若きリーダーたち

 今年2月19日、女川町商工会青年部の5名が、熊本県商店街振興組合連合会を訪問。これは、青年部長のマルサン高橋さんと熊本市新市街商店街振興組合の安田さんのホットラインにより実現しました。 若手経営者同士、イベントや物産の交流に着手するためのアイデアを出し合いましたが、その中には今年秋の熊本の祭りで女川産サンマを提供するといった具体案も。高橋さんは、「まずは、無理せず実現可能な範囲で、着実に進めていきたいと考えています」 と教えてくれました。


女川町商工会青年部5名が熊本県商店街振興組合連合会の事務所を来訪

3. 震災伝承次世代育成支援

震災の記憶と教訓を若い世代につなぐ

 仙台国際センター展示棟で3月12日に開催された「仙台防災未来フォーラム2017」のテーマセッションとして、「次世代が語る/次世代と語る〜311震災伝承と防災〜」を行いました(主催/河北新報社・特別協賛/日本損害保険協会)。
 尚絅学院大学の学生ボランティアチームTASKI(たすき)が活動報告し、通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」について事務局の河北新報社が説明。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが「ファインダー越しに見つめた東北」と題して講演しました。 さらに、地域の震災伝承に関わる3人を加えてトークセッションも行い、命を救う教訓継承の大切さと防災啓発の重みを共有し合いました。
 そして4月15日には、「311『伝える/備える』次世代塾」が、東北福祉大学仙台駅東口キャンパスで開講。募集定員30人を大幅に上回る116人の大学生や社会人を受け入れました。 開講式を行った後、〝わたしたちにとって、震災とは何か〟を語り合うグループワークを行い、受講生同士の交流も図りました。講座は来年3月まで全15回を予定しています。


フォトジャーナリスト安田菜津紀さんらが登壇したトークセッション



若き担い手が集まった「311『伝える/備える』次世代塾」の初回講座 

4. こども未来応援教室

興味を深め将来の職業像を思い描く

 2016年度のラストを飾る活動として、地域の将来を担う子どもたちを応援する「こども未来応援教室」を、3月25日に宮城大学大和キャンパスで開催しました。
 午前の部では、プロジェクト賛同企業などによる独自の授業「社会科学習」を3教室実施。午後の部は、子どもたちの関心が高い職業のプロに授業を行ってもらい、 そのシゴトを体感する「シゴトワークショップ」(今回は、カメラマンや指揮者など7教室)を行いました。また、〝2020年教育大改革〟をテーマにした保護者向けの講演会も盛況に。 会場に集まった約250人の子どもたちは、楽しい職業体験を通して将来への夢や希望を思い描くことができたようです。


神戸製鋼コベルコスティーラーズの現役選手が登場



指揮者体験に子どもたちの目は真剣そのもの



内容充実の保護者向け講演会

プロジェクトは
これからも皆さんとともに進んでいきます。

2016年度における今できることプロジェクトの活動はこれで一旦完了となりますが、
「おしかグルメランチボックスの開発」の継続も含め、
新たな展開を現在企画中です。真の復興のために今、
何ができるかを皆さまと一緒に考え、その思いや学びを共有しながら、
より人の輪を広げていきたいと考えています。
 2017年度活動のスタートを切る際には、また、河北新報紙面とホームページ、
フェイスブックでお知らせいたします。リアルタイムの情報は、
フェイスブックの記事でお伝えしていきますので、
引き続きご覧いただけますようお願いいたします。

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