河北新報特集紙面2019

2019年11月24日 森を育てる仲間を増やして、豊かさを分かち合う明日を。

森を育てる仲間を増やして、豊かさを分かち合う明日を。

継承の地に思いを寄せ、新たな未来を描く希望を。

 震災による津波で大部分を失った亘理町東部沿岸部の海岸林を再生させる「おらほの森」づくりを柱に、 ボランティアツーリズムや熱気球フェスティバルなどに取り組んでいる特定非営利活動法人わたりグリーンベルトプロジェクト。
今回のバスツアーは、植樹のお手伝いをするボランティア活動を実施しました。
さらに、被災高齢者の生きがいづくりと同団体の自活を目的とした地域菜園「おらほの畑」で農作業体験にチャレンジ。
参加者たちは、秋の豊かな実りも実感することができました。

浜辺の森に人々が集う希望をたくさんの苗木に託して

 清々しい秋晴れの朝、49人の参加者を乗せたバスは仙台駅東口を出発し、亘理町へ向かいました。南北20kmに渡って高さ7.2mの防潮堤が連なる沿岸部に到着すると、たくさんの若木が行儀よく整列している盛り土の上で、代表理事の嘉藤一夫さんらプロジェクトスタッフ9人が出迎えてくれました。そのかたわらには、作業道具とともにアカマツやクロマツ、コナラ、ミズナラ、シラカシなど300本もの苗木が。嘉藤さんが森づくりの趣旨を参加者たちに紹介し、「和気あいあいと楽しく取り組んでください」と締めくくったのを合図に、未定植のエリアに移って活動がスタートしました。スタッフの東聖史さんが作業の手順を説明した後、まずは雑草取りから着手。そして、事前にスタッフが差しておいた木の棒を目印に20cm程度の穴を掘って苗を植え、根元に土をかぶせていきました。すべて植え終わった後、参加者それぞれが木札に名前を書き入れて植樹した場所に差し、最後に「今できることプロジェクト」の記念プレートを設置して作業完了。参加者の一人が、「成長を確かめに、またこの場所を訪ねてもいいですか」と嘉藤さんに聞くと、「これから維持管理に多くの手が必要となるので大歓迎です。この場所が森と呼べるようになるまで少なくとも30年、海岸林として機能するのに100年かかると想定されますので、世代を超えて受け継ぐための仕組みづくりも今後の課題ですね」と答えました。

 防潮堤に上って海原と再生途中の海岸林を眺めた後、吉田公民館でランチタイム。畳敷きの大広間では、秋の亘理名物「はらこ飯」が一行を待っていました。用意してくれたのは、同町でお弁当を作っている分銅商店。さらに、スタッフが温かい豚汁も参加者に配りながら、「汁の具材は、わたりグリーンベルトプロジェクトの畑で収穫した野菜を使っているんですよ」と説明し、午後から行う活動への期待感を一層高めてくれました。

活動について紹介する
代表理事の嘉藤一夫さん
左/スタッフの説明を聞いて熱心にメモをとる参加者
右/マツ類は支柱を添えてしっかりと補強

秋の実りに新鮮な感動を得て貴重な体験もお土産に

 午後は、わたりグリーンベルトプロジェクトの事務局前に広がる畑で農作業に挑戦。昨年から、本格的に栽培を始めたという落花生を収穫しました。参加者の中には、豆が地下で実ることを初めて知り、ビックリしたという人も。さらに、この日掘り出した“おおまさり”という品種が、普段食べ慣れている落花生のサイズより一回りも二回りも大きくて、ますます驚いた表情が増えていました。「宮城で落花生って珍しいですよね。来年、プロジェクトへの助成が終了してしまうので、活動を支えるための十分な収入を確保したいと考え、粒が大きくて食べ応えのある“ガッツリ”と“おおまさり”の2品種を手掛けることに決めました。地元で長く農業に従事してきた近隣のお年寄りも畑づくりに協力してくれており、90歳を超えるおばあちゃんも元気に畑で作業してくれているんですよ」と嘉藤さんが話すと、参加者から感心の嘆息がもれていました。さらに奥の畑で、サツマイモを収穫。この日の収穫物はすべて参加者たちのお土産として持ち帰ることができ、最後にはみんなほくほく顔に変わっていました。

 最後にバスは、「わたり温泉鳥の海」に立ち寄り、参加者たちは入浴を楽しんでサッパリ爽快。特産品のショッピングも楽しむことができ、大いに充実感を得て帰途につきました。

鮭の身とイクラがたっぷりのった「はらこ飯」 ごろごろと実った大きな落花生

参加者の声

仙台市宮城野区

滝田 秀幸さん・愛さん

 今年の春、関西から引っ越してきたばかりという滝田さんご夫婦。「亘理町について詳しく知らなかったので、どれも新鮮な体験となりました。復興に関わる活動にも参加できて、とても大きな意義を感じています」と愛さん。秀幸さんは、「阪神淡路大震災を大阪で経験しているので、宮城にも共感する部分が多いです。会社の同僚から話を聞いていましたが、現地に足を運んで震災について知る良い機会となりました」と教えてくれました。

名取市

布宮 義久さん・美都世さん・更咲さん・礼仁さん

 熱心に取り組む姿が印象的だった布宮さんご家族。特に、更咲さんは、大きな落花生の収穫を初体験して、ちょっと興奮気味の様子。美都世さんは、「津波の恐ろしさを現地で実際に見て、地元の人たちと交流しながら学ぶことが、子どもたちにとっても良い経験になると考えました」と参加の理由を話してくれました。義久さんも、「多くの人が亡くなった事実を受け止めながら、震災について知る機会を無駄にしないようにしていきたいと思っています」と語ってくれました。

賛同企業の声

仙台市宮城野区

大和証券株式会社 長澤 光江さん

 大和証券では、国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)の達成を課題に掲げ、さまざまな社会貢献活動に取り組んでいますので、宮城の復興に関わるプロジェクトにも積極的に参画していく方針をとっています。今日のバスツアーは、はらこ飯や豚汁もおいしかったですし、落花生の収穫体験という面白い体験もでき、楽しく参加させていただきました。今後も、自分自身で活動を楽しみながら、支援を継続していければと考えています。

NPO法人ボランティアインフォがサポート http://volunteerinfo.jp

「ボランティアを求める人とボランティアをつなげる」をミッションに、仙台を拠点に活動。このボランティアツアーのコーディネートを担当し、当日ガイド役として参加者をご案内しました。

今回の「今できること」の紙面をPDFで見る