河北新報特集紙面2019

2020年3月31日 憩いと学びの交流拠点から、半島を巡って出合える感動を。

憩いと学びの交流拠点から、半島を巡って出合える感動を。

東日本大震災の復興のために、一人一人が今できることを考え、そのきっかけを提供する「今できることプロジェクト」。
読者の皆さんを被災地に案内するツアーを随時開催してきましたが、3月14日に予定していた「鮎川浜の新しい魅力発見バスツアー」は新型コロナウイルスの影響で中止となりました。
昨年10月に観光拠点「ホエールタウンおしか」がオープンし、今年春にはクジラと捕鯨のミュージアム「おしかホエールランド」が復活する石巻市鮎川地区の魅力を、皆さんの来訪を心待ちにしている関係者のインタビューと共にお伝えします。

牡鹿の旅をもっと楽しくする新たな観光拠点が誕生

 牡鹿半島の突端、対岸に網地島を望む鮎川港東側、約2万4000㎡の広大な敷地が広がります。高台から眺めると、まるで身をうねらせる鯨の背のような屋根を持つ巨大な建物が目を引く「ホエールタウンおしか」です。最初にのぞいたのが、観光物産交流施設「cottu(こっつ)」。ここには、観光インフォメーションセンターのほか、離島航路の発券所と待合所、飲食店や物産販売店の7店が軒を連ねています。
 まずは、腹ごしらえ。館内には、「プラザサイトー」「黄金寿司」「海鮮レストランなぎさ」の3軒の飲食店があり、新鮮でおいしい海の幸が味わえるメニューを取り揃えています。特に、各店で力を入れているのが、古くから捕鯨文化息づくこの地ならではの鯨料理。「プラザサイトー」では、さまざまな部位が存分に楽しめる「鯨刺身定食」が人気です。お土産選びなら、鯨の歯を繊細に加工した工芸品を取り扱う「千々松(ちぢまつ)商店」と、鯨肉の加工品海産物を販売している「くじら家」へ。「くじら家」スタッフの方にベストセラーを聞くと、石巻市立牡鹿中学校の生徒がラベルのデザインを考案した「牡鹿の鯨缶」をおすすめしてくれました。ツチクジラの肉が持つ豊かな旨みを生かした大和煮のおいしさはもちろん、ラベルに描かれたカラフルな絵柄に惹かれて思わず手に取る人が多いそうです。

「プラザサイトー」の人気メニュー
「鯨刺身(単品)」 
左/牡鹿中の生徒がデザインしたラベルが楽しい「牡鹿の鯨缶」
右/鯨皮・鯨肉の加工品のラインアップが充実している「くじら家」

鯨の文化とおいしさをこれからもっと多くの人へ

 「cottu」に隣接するのが、三陸復興国立公園・牡鹿半島エリアの自然やこの地域の人々の暮らしについて紹介する「牡鹿半島ビジターセンター」。季節ごとの見どころやアクティビティーなどの情報を案内し、エコツーリズムの魅力を教えてくれます。
 そして、震災による津波で失われてしまった「おしかホエールランド」も開館間近。鮎川まちづくり協会役員で、昭和44年の開設から地元で長く捕鯨文化を支えてきた外房捕鯨株式会社鮎川事業所の所長も務める大壁孝之さんに、一足早くその魅力について聞きました。「豊富な展示資料のほか、日本で2体目となるコククジラや全長約16mのマッコウクジラの標本骨格も展示します。専門知識を持った学芸員も常駐し、期間ごとの特別展も行う予定です。野外展示されているキャッチャーボート(捕鯨船)の甲板に上がり、捕鯨砲の見学ができるよう準備も進んでいます」と、ミュージアムの見どころをPRします。
 さらに、外房捕鯨鮎川事業所では、4月5日にミンククジラの捕鯨船の操業を開始。これによって、調査捕鯨ではできなかった、船上処理済みの新鮮でおいしい鯨肉が手に入り、珍味として知られる百尋(ヒャクヒロ)など多彩な部位も提供できるようになるそうです。大壁さんは、「子どもの頃、捕鯨船で仕事をしていた漁師の姿に憧れていました。31年振りの商業捕鯨再開で、やっと自分の夢が叶います」と、目を輝かせます。

牡鹿半島ビジターセンター  「外房捕鯨株式会社 鮎川事業所」
所長の大壁孝之さん

牡鹿エリアのあらゆる魅力を3島を巡るクルージングで

 鮎川港からは、石巻港から田代島・網地島を経由して鮎川港間を運航する「網地島ライン」と、金華山への定期船と海上タクシーを運航する「金華山航路事業協同組合」の船旅を楽しむことができます。「cottu」内に発券所もありますが、離島観光の魅力を熟知し、より多くの観光客が楽しめるようオリジナリティーあふれる旅行商品を考案しているのが、すぐ目の前に金華山が浮かぶオーシャンビューが自慢の「島周の宿さか井」オーナー、遠藤秀喜さん。「以前から、猫島として人気の田代島や東奥三大霊場の一つに数えられる金華山が有名で、首都圏の旅行代理店も有効な観光コンテンツとして高く評価しています。それでもやはり交通の不便さによって、まだまだ秘境というイメージがあるようです。だから、点でアピールするのではなく、半島のあらゆる魅力を堪能してもらうことを目的に、比較的アクセス容易な石巻港から出港して3島を巡るプランを企画しました」と遠藤さん。地元ガイドによる島内散策を満喫し、「さか井」で鯨料理も味わえる夕朝食付きの滞在をゆったり楽しんでもらえる旅行パッケージをセールス中。立ち寄り場所として設定している「ホエールタウンおしか」は、プランの充実を図る上で重要な要素になっているとも語ります。

「島周の宿 さか井」代表取締役の遠藤秀喜さん

アイデアを形にしていきながらたくさんのファンが集う場所に

 「ホエールタウンおしか」からほど近くには、仙台藩が唐船の襲来に備えて見張り所を設置していた絶好のビューポイント「おしか御番所公園」や、景観抜群で設備も充実した「おしか家族旅行村オートキャンプ場」があり、これからの暖かくなる季節にピッタリのレジャースポットに。今年の夏には、「十八成(くぐなり)浜海水浴場」もオープンする予定です。「ホエールタウンおしか」は、このエリアの観光にとって重要な拠点となることは間違いありません。大壁さんは、「鮎川まちづくり協会には、若いスタッフがいろいろなアイデアを出し合い、牡鹿半島を盛り上げようと頑張っています。なかには、県外から移住してきたスタッフもおり、地元の人が思いもつかなかった発想で驚かせてくれています。これから販売を予定している、旬ごとに違った牡鹿産の海鮮が味わえる『おしか丼』も、若いスタッフたちの企画なんですよ」とアピールします。新潟県から移住し、同協会で運営に携わる関原雅人さんは、「ここは、観光客だけでなく地元の人が気軽に集まる憩いの場にもなっています。人も温かいし、海山の魅力がたくさん。これから、もっと多くの人に知ってもらい、新たな賑わいが生まれることを期待しています」と展望を語ります。

写真左から、一般社団法人 鮎川まちづくり協会の関原雅人さん、安住香那さん、田中由美さん

ホエールタウンおしか

住所/石巻市鮎川浜南43-1 https://oshika.miyagi.jp

観光物産交流施設cottu

TEL.0225-24-6644  開館時間/8:30〜17:00・年中無休

牡鹿半島ビジターセンター

TEL.0225-24-6912  開館時間/9:00〜16:30・水曜休館

今回の「今できること」の紙面をPDFで見る